
ご家族が相続について最初に誰かへ相談するとき、その相手は必ずしも士業事務所ではありません。
もちろん、司法書士や税理士に真っ先に連絡が入ることもあります。
ただ実際には、葬儀を終えて仏壇の手配を進めている最中に、「実家はどうしたらいいんでしょうか」「この先、何から手をつければいいのか」と、目の前にいる担当者へこぼすご家族も少なくありません。
正式なご依頼をいただくよりずっと前から、相談はもう始まっているわけです。
2026年9月3日に発表された「お仏壇のはせがわ」の不動産売買仲介事業への本格参入は、この「相談の入口」を考えるうえで参考になる動きだと思います。(はせがわの発表)
仏壇の相談から、実家や相続の相談へ
はせがわは2026年9月1日、国土交通大臣免許に基づく不動産売買仲介事業を本格稼働させました。
全国138店舗を相談窓口とし、仏壇やお墓の支援に加えて、実家の売却・解体、遺品整理、司法書士・税理士等との連携による相続・税務手続きまでを受ける体制です。
さらにその先の終活や介護の支援も視野に入れています。
同社が背景として挙げているのは、ご遺族が複数の窓口を回らされる負担でした。
仏壇店、遺品整理業者、不動産会社、士業。
そのつど相談先を探し、同じ事情を最初から説明し直さなければならない。
この状態を、同社は「手続き難民」と表現しています。(事業内容と参入の背景)
事務所経営の目線で見れば、供養を通じて築いてきた関係を、その先の困りごとまで広げていく試みだと言えます。
専門家に相談する前に、話を聞いている人がいる
ご家族を見送ったあとには、葬儀や供養、遺品整理、実家の管理、名義変更、税務申告と、やるべきことが次々に出てきます。
順番は家庭によってばらばらですし、いくつかが同時に走ることも珍しくありません。
そのなかで、葬儀社や仏壇店が士業事務所より先に不安を打ち明けられる場面は、実際にあると思います。
手続きを担当する人が、最初に話を聞く人だとは限らないということです。
同じことは、相続が起きる前についても言えます。
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」を見ると、空き家の取得方法のうち57.9%が相続でした。
相続で取得した空き家について、相続前に何らかの対策を講じていた世帯は23.0%にとどまります。
対策を講じていなかった場合、活用も解体も考えないまま空き家として所有していた割合は45.1%。
対策を講じていた場合の29.4%と比べると、およそ1.5倍の開きがありました。(国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」)
もっとも、この数字だけで事前の対策がその後の違いを生んだと言い切ることはできません。
それでも、実家の行く末について早い段階で話し合う機会をつくる意味はありそうです。
ご家族が困りごとを整理できていない段階から話を聞き、必要な支援へつないでいく。
その役割を誰が担うのかは、士業事務所にとっても考えておきたいところだと思います。
専門家につないだあと、関係はどう続いているか
先生方の事務所でも、受任した手続きの周辺で、こうした相談を受けることがあるはずです。
- 実家を売りたい
- 遺品を片付けたい
- 墓じまいをしたい
- 親の入居施設を探したい
- 二次相続に備えたい
- 遺言を作っておきたい
自事務所で引き受けられるものもあれば、他の専門家や事業者へお願いするものもあるでしょう。
専門外の相談を適切な相手へつなぐこと自体は、ご家族にとってありがたい支援です。
気になるのは、その後です。
紹介先で話は進んだのか、困りごとは片づいたのか、新しく気にかかっていることはないか。
事務所側でそこまで把握できているケースは、そう多くないと思います。
やり取りが途切れてしまうと、次に何かあったときの相談は紹介先へ持ち込まれ、自事務所には届かないことがあります。
紹介したあとに一度だけでも状況を確認しておく。
つなぎ方を少し見直すだけで、事務所が果たせる役割は広がります。
関係の継続は、次の受任機会にもつながる
年間120件の相続案件を扱う事務所を例に、少し試算してみます。
以下の件数・割合・単価は、考え方を示すための仮定です。

120件のうち4割にあたる48件で、不動産の売却や実家の処分が話題に出たとします。
そのご家族を連携先へおつなぎし、半数の24件では、売却などが一段落したあともやり取りが続いたとします。
さらにそのうち2割ほど、5件が数年以内に生前対策や二次相続の相談へ発展して受任に至り、平均単価が30万円だった場合、合計で150万円になります。
ここで気をつけたいのは、これがある1年に対応したご家族から、その後の数年をかけて生まれる金額だという点です。
毎年150万円ずつ売上が積み増されるという意味ではありません。
実際の成果は、ご家族の事情や事務所の対応によって変わります。
それでも、すでに相談を受けたご家族との関係を続けることが、将来の受任機会につながる余地はあると思います。
新規の集客に取り組むことと、これまでのご縁から次の相談を生む仕組みをつくること。
後者には、まだ手をつけていない部分が残っているように思います。
小規模な事務所でも始められる、4つの取り組み
はせがわの体制でも、法律にかかわる領域は士業との連携で対応するとしています。
すべてを自社で抱え込むかたちではありません。(専門家との連携方針)

士業事務所の側も同じで、自分たちの専門性を軸に置きながら、連携先と役割を分けてご家族を支えることはできます。
大がかりな仕組みを入れる前に、まずは次の4点から点検してみてはいかがでしょうか。
1.受任業務の周辺にある困りごとを記録する
面談の場で、実家の処分、遺品整理、お墓、介護、二次相続など、気にかかっていることを聞いておきます。
その場で方針まで決める必要はありません。
相談の中身と、いつ頃考えたいのかを案件記録に残しておけば、後日こちらから声をかける材料になります。
2.紹介するときに、その後の確認方法まで決めておく
連絡先をお伝えする際、ご家族の了承を得たうえで初回の打ち合わせに同席する、連携先から進捗を共有してもらう、といった段取りも一緒に決めておきます。
ご家族に同じ事情を何度も説明していただく負担も減らせます。
3.手続きが終わったあとの連絡経路を残す
登記や申告が完了するタイミングで、希望されるご家族へLINEなどで情報を届ける仕組みをご案内します。
「また何かあればご連絡ください」とお伝えするだけでは、数年後に思い出していただくのは難しいためです。
4.連携先は、紹介したあとの対応まで見て選ぶ
専門性や対応品質はもちろんですが、進捗を共有してくれるか、ご家族への説明が丁寧か、新しい相談が出たときにこちらへ戻してくれるか。
紹介後も一緒にご家族を支えられる相手かどうかが、大切な判断基準になります。
手続きの先でも、思い出してもらえる事務所へ
はせがわの不動産参入から考えたいのは、ご家族が相談しやすい窓口をつくり、その関係を絶やさないことの価値です。
士業事務所には、相続手続きを通じてご家族の事情を知り、信頼関係を築ける機会があります。
その関係は、手続きが終わったところで終わらせなくてもいいはずです。
「実家のことが気になってきた」「残された親のこれからを考えたい」。
そう思ったときに、あの事務所に聞いてみようと浮かんでくる。
それはご家族の安心につながりますし、結果として次の相談や受任にもつながっていきます。
弊社が提供する「サズカルステップ」は、相続・生前対策に関する情報をLINEで継続的に配信し、事務所とご家族とのつながりを支える仕組みです。
手続きが完了したあとも情報を届けておくことで、新たな関心や相談が生まれたときに声をかけていただける接点をつくります。(サズカルステップのサービス詳細)
手続きの先でも、ご家族が相談できる事務所であり続けるために。
継続フォローの仕組みを検討されている先生方は、サズカルステップのサービス資料をご覧いただければと思います。
