AI活用で浮いた時間を「顧客接点」に投資する事務所が成長できる

2026.06.02 18:31

前回(その①)では、「コンサルできる人を育てるのではなく、コンサルできる事務所をつくる」という話を書きました。

コンサルを分解し、診断や提案のたたき台はAIに任せ、人は信頼と責任の部分を担う。
主語を「人」から「事務所」へ移す、という発想です。

今回は、もう一歩踏み込みます。
生成AIで手続き業務の時間が減ったとして、その空いた時間を、事務所は何に振り向けるべきなのか。
結論から言えば、顧客との接点づくりと関係維持、そして顧客教育です。ここにこそ、これからの事務所の成否がかかっています。

 

 

空いた時間を、処理ではなく「接点」に振り向ける

まず、AIと人の役割をはっきりさせておきます。
AIが担うのは、考え、気づかせ、下書きする仕事です。
顧客の状況を踏まえた診断、提案の骨子、シミュレーション。かつてベテランの頭の中にしかなかった作業を、たたき台として出してくれます。

人が担うのは、届け、納得してもらい、責任を負う仕事です。
顧客と信頼関係を築き、提案の最終判断を下し、実行まで伴走する。
これは「AIに仕事を奪われる」話ではありません。むしろ逆で、人が自分にしかできない仕事に集中できるようになる、という話です。


そこで問われるのが、効率化で浮いた時間と労力を、どこに投じるかです。

処理が速くなった分をさらなる処理量に充てるのか。それとも、顧客との接点を増やすことに充てるのか。
ここでの選択が、数年後の事務所の姿を大きく変えると私は考えています。

 

 

AIでは差がつかない。差がつくのは「顧客関係構築」

ここで、多くの事務所が誤解しがちな点があります。「AIを入れれば差がつく」という思い込みです。

はっきり言えば、AIそのものでは差はつきません。
AIが当たり前になるほど、誰が使っても似たようなたたき台が出てくる。ツールは、横並びになっていきます。

では、どこで差がつくのか。

顧客データと、顧客関係の蓄積です。


同じAIを使っても、顧客の家族構成・資産状況・これまでのやり取りが厚く溜まっていて、しかもその情報をもとに「いま声をかけられる相手」がいる事務所と、そうでない事務所とでは、提案の精度もタイミングも、受任の成果も、まるで違います。

AIは、その蓄積を増幅する装置にすぎません。
元になるデータと関係がなければ、増幅するものもない、ということです。

しかも、この関係資産には、もう一つ重要な性質があります。
接点が増えれば顧客情報が溜まり、情報が溜まればAIの提案精度とタイミングが上がる。

先回りの提案が当たれば受任が増え、そこからまた新しい接点が生まれる。
回せば回すほど厚みを増すこの蓄積は、後から同じAIを手にした競合が現れても、簡単には追いつけません。AI時代に守りきれる堀は、ツールではなく関係資産の側にあります。

 

 

差がつく一点 ―「予防法務」と「おせっかい」

では、その関係資産の上で、人は何をするのか。
ここで効いてくるのが、「予防法務」「おせっかい」という考え方です。

法務サービスには、臨床法務・予防法務・戦略法務という段階があると言われます。
相続が起きてからの手続き代行は、いわば臨床、つまり治療にあたります。
これに対して、生前対策や遺言は、予防医療にあたります。

予防医療は、体が元気な人にこそ価値があります。
自覚症状がなくても、人間ドックで芽を見つけ、健康なうちに摘む。
相続も同じです。いま困っていない顧客にこそ、将来の争族・資産凍結・想定外の税負担といった、まだ症状の出ていない芽を見つけ、手当てを提案する。

顧客がまだ気づいていない課題に、こちらから踏み込んで提案する。これが「おせっかい」です。
押し売りとは違います。信頼を積んだ相手からの予防提案だからこそ、ありがた迷惑ではなく、感謝に変わります。

そして、この一線にこそ、人にしかできない価値があります。
AIが芽を見つけても、それを「あなたのために申し上げています」と届け、相手の腹に落とし、動いてもらうのは、信頼を積み重ねた人にしかできません。
AIが進化するほど、皮肉にも、この「人にしかできない部分」の価値は上がっていきます。

 

 

だから、まず「顧客接点」と「顧客情報のベース」をつくる

こう考えると、これまで以上に重要になることが見えてきます。
入口の手続きで終わらせない関係構築。その関係を切らさない継続。そして、予防の必要性を腹落ちさせる顧客教育です。

ただし、「おせっかい」は思いつきではできません。
いつ・誰に・何を伝えるべきか。その起点を、感覚ではなく仕組みで持てるかどうか。
これが、事務所全体で予防法務を提供できるかどうかの分かれ目になります。

順番として、まず必要なのは、顧客接点をつくり、顧客情報のベースを蓄積することです。
立派なシミュレーションも提案ストーリーも、土台となる顧客データと関係がなければ動き出しません。
では、その土台を、低い負担でつくり続けるには何が向いているのか。

ハードルを低くして接点をつくれること。
有益な情報を届けながら、つながりを切らさずに続けられること。
顧客の属性に合わせた情報を、ステップ配信で自動的に届けて育成できること。
この三つを同時に満たす手段として、私たちはLINEの活用が最適だと考えています。

LINEは、すでに多くの顧客の手の中にあるチャネルです。
相続のターゲットになりやすい高齢層の利用率も高く、メールよりも届きやすい。
新しいアプリを覚えてもらう必要がないぶん、接点づくりのハードルが格段に低いのです。

 

 

相続・生前対策に特化したLINE拡張システム「サズカルステップ」

そのLINE活用を、相続・生前対策に注力する士業事務所向けに設計したのが、私たち(Samika)が提供する「サズカルステップ」です。
LINE公式アカウントを拡張し、顧客接点づくりから情報発信、顧客教育までを、事務所の負担を抑えながら仕組みとして回せるようにしたものです。

主な機能は、次のとおりです。

  • 自動コラム配信:相続・生前対策のコラムを定期的に自動配信。先生方がコンテンツを毎回つくる必要はありません。
  • 簡単ステップ配信:相続税申告や遺産整理などの受任者に対し、簡単な設定で、業務の進捗や顧客属性に合わせた情報を段階的に届けられます。
  • 100種類以上のテンプレート:相続・生前対策に特化した配信テンプレートを多数用意。「何を送ればいいか分からない」という最大のボトルネックを取り除きます。
  • 既存システムとの連携:GoogleスプレッドシートやKintoneなどの顧客管理システムと連携し、二重管理の手間をなくします。

やっていることを一言でいえば、「おせっかいを、仕組みで起こす」ことです。
人生の節目ごとに、こちらから自動で声をかける。
担当者が「いつ、誰に声をかけるか」を一人で抱え込まなくても、仕組みがその起点を持ってくれます。

 

 

それでも、システムだけでは足りない

ただし、はっきり書いておきたいことがあります。
仕組みだけでは、十分ではありません。

最後に受任を決めるのは、リアルの場での「おせっかい」提案であり、そのためのリアルな接点です。
システムは、関係を貯め、育て、顧客の関心が高まった瞬間を教えてくれる。
けれど、そこから先――顧客の腹に落とし、責任を持って実行するのは、やはり人です。

AIが診断し、仕組みが声をかけ、人が信頼で受け止め、責任を負う。
システムと人、どちらが欠けても成り立ちません。
この役割分担が回り始めたとき、はじめて「コンサルできる事務所」が形になります。

AI時代に問われているのは、「コンサルできる人がいるか」ではありません。
「コンサルを提供できる事務所の仕組みがあるか」です。

その第一歩は、顧客接点をつくり、関係資産を貯め始めること。今日からでも、始められます。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

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