
生成AIの進化で、士業事務所の手続き業務は目に見えて軽くなりつつあります。
相続業務でいえば、戸籍の読み取り、相続関係説明図の作成、各種申請書類の下書き。
これまで時間と人手をかけてきた作業が、次々とシステムに置き換わっています。
こうした流れの中で、必ず出てくる問いがあります。「では、人は何をするのか」。それに対して士業業界での答えは、ほぼ一つに収斂しています。
「これからはコンサルティングだ。コンサルができる人材になろう」と。
方向性として、私はこれに反対しません。むしろ正しいと思っています。ただ、「士業事務所はコンサルを提供すべきだ」という掛け声だけでは、事務所は変わりません。今回はその理由と、私たちなりの別解を書いてみます。
「コンサルへ」は、もう10年以上言われ続けてきた
「コンサルで差別化を」という話は、今に始まったものではありません。
会計・税理士業界では、もう10年も15年も前から「記帳代行や顧問業務だけでは食えない。これからはMAS監査だ、経営支援だ、財務コンサルだ」と言われ続けてきました。
それをテーマにしたセミナーも、数えきれないほど開かれてきたはずです。
当時から、理想そのものは正しかったと思います。
それでも、「コンサル」が業界のスタンダードになったかというと、正直そうはなっていません。
形にした事務所はあっても、多くの事務所にとっては「いつかやりたいこと」のまま、今日まで止まっています。「コンサル」に寄せた士業事務所が急成長したという話も殆ど聞いたことがありません。
同じ構図が、いま「AI時代の生き残り=士業のコンサル化」という言葉で、もう一度繰り返されようとしています。
そう発信するブログやセミナーを見るたびに、私はどこか引っかかりを覚えます。
10年やって定着しなかったものが、頭に「AI」と付くだけで、今度こそ定着するのでしょうか。
なぜ「スタッフのコンサル化」は失敗するのか
先に断っておくと、これは「スタッフの能力が低いから」でも「勤務資格者の意識が足りないから」でもありません。
原因は、もっと構造的なところにあります。
ひと口に「コンサル」と言いますが、その中身は、性質のまるで違う三つの力の束です。
一つめは、顧客の状況から課題や打ち手を見抜く「診断・洞察の力」。
二つめは、それを相手に響く形で届け、受任につなげる「提案・営業の力」。
三つめは、実行し、結果に責任を持つ「実務・責任の力」。
問題は、この三つのどれもが、資格試験で測られる、求められる力ではないことです。
試験に受かる力と、これらはまったくの別物です。
そして、三つを高いレベルで兼ね備えた人材が士業事務所の採用市場に潤沢に流れてくるかといえば、現実はご存じの通りです。
開業して事務所を経営している先生方は、この三つを素地として持っています。だからこそ独立できたとも言えます。
けれど、それを「資格者やスタッフにも身につけさせる」となると、話はまるで違います。
「コンサル力をつけよう」とセミナーに通わせ、ツールを揃えても、思うようにはできるようにならない。
結局、慣れた「手続き代行」の仕事へと戻っていきます。
つまりこれは、本人のやる気の問題ではなく、個人の資質に頼る設計そのものに無理がある、ということです。
コンサルを「分解」すると、AIの【活用ポイント】が見えてくる
では、どうするか。
「コンサル力が必要だ」という主張を、事務所で実現できる形に落とし込むために、もう一度さきほどの三つの力に戻ります。
このうち「診断・洞察」、つまり顧客の状況を読み、論点を立て、提案の骨子をつくる部分は、長らく「できる人の経験と勘」に頼るしかない領域とされてきました。
属人的で、再現が難しい。だからこそ、人を育てるのにも時間がかかってきたわけです。
ところが、まさにこの領域こそ、いまの生成AIが急速に得意になったところです。
相続業務でいえば、二次相続のシミュレーション、家族構成からのリスクの洗い出し、提案書のたたき台づくり。
かつて「できる人」の頭の中だけにあったものが、仕組みとして再現できるようになってきました。
一方で、AIに渡せない部分もはっきりしています。
最適な対策を提案し、相手の納得を引き出すこと。
そして資格者として、最終的な責任を負うこと。
ここは、人にしかできません。
見方を変えれば、一塊に見えていた「コンサル」という仕事は、「AIに任せられる部分」と「人が担うべき部分」に、きれいに分けられるということです。

相続業務で、AIと人の分担を考える
抽象論のままでは動けないので、相続業務の現場に当てはめてみます。
AIに任せるのは、提案の中身を組み立てる作業です。
家族構成や資産の状況を入力すれば、二次相続まで見据えたシミュレーション、想定されるリスク、提案ストーリーのたたき台が返ってくる。
これまで一部のベテランにしかできなかった「診断・洞察」を、若手スタッフでも入り口に立てる状態にする、ということです。
人が注力するのは、その先です。
出てきたたたき台を顧客に合わせて磨き、面談で言葉を尽くして提案する。
不安に寄り添い、信頼を積み上げ、最後に「お願いします」を引き出す。
スタッフの時間と労力は、ここに集中させます。
実は、多くの事務所でスタッフが提案できない本当の理由は、「コンサル力がないから」ではありません。
「いつ・誰に・何を提案すればいいか」を判断し、自分から動く習慣がないこと。こちらのほうが、はるかに大きいのです。
ここを、生成AIと顧客管理(CRM)で支えます。たとえば、こんな形です。
- 生前対策の診断シミュレーションと提案ストーリーをAIで用意し、次回の面談で提示する
- 相続登記が完了した顧客に、不動産売却や負動産処分のサポートをリマインドする
- 遺言書を作成した顧客に、年に一度連絡を入れ、書き直しや追加の生前対策を提案する
いずれも、すでに信頼関係のある顧客に、適切なタイミングで届ける動きです。
提案の「中身」と「きっかけ」は仕組みが用意し、人は「届けること」に集中する。
この役割分担なら、突出した才能がなくても回り始めます。
「コンサルできる人」より「コンサルできる事務所」を
「(人が)コンサルできるようになれ」という従来の発想は、個人のレベルアップを前提にしています。
だから、成果が出にくい。
優秀な提案人材を採用できるかどうかに、事務所の将来が左右されてしまいます。
また、もしそんな優秀な人材が採用できたとしても、数年後に独立するというケースも少なくありません。
これに対して「(事務所が)コンサルを提供できる状態をつくる」という発想は、問題を「人の能力」から「事務所の仕組み」へと移し替えます。
裏を返せば、「飛び抜けた提案人材を採用できなくても、事務所としてコンサルは提供できる」ということでもあります。
提案できる人材の確保に頭を悩ませてきた事務所ほど、この視点は効くはずです。
生成AIの登場は、士業事務所にとって「手続き業務を奪う脅威」として語られがちです。
けれど見方を変えれば、これまで属人的でしかなかった「診断・洞察」を、はじめて仕組みに載せられるようになった、ということでもあります。
コンサルを「人」に宿す時代から、「事務所」に実装する時代へ。
では、その「コンサルできる事務所」は、具体的にどんな仕組みで動くのか。
AIと人は、それぞれ何を、どう担うのか。
次回コラムで、その中身に踏み込みます。

