
「求人を出せば、数か月後には資格者を一人採用できる」
その前提で、相続部門の計画を立てている事務所は少なくないと思います。
相談が増え、資格者の手が回らなくなったとき、増員を考えるのは自然なことです。ただ、採用が予定どおり進まなければ、その間の案件対応や成長計画にも影響が出ます。
採用活動を進めながら、いまの体制でも業務を進めやすくしておく。この両方に取り組む必要性が、以前より高まっていると感じています。
地方では求人を出しても採用時期を読みにくい
私たちの支援の現場では、ここ数年、資格者採用の難しさを感じる場面が増えています。特に地方商圏では、求人を続けても応募が集まらず、1年以上採用が決まらない支援先もあります。
通勤圏内で探せる資格者は限られます。地域外から迎えるには、転居や家族の生活まで含めて、その地域で働くことを選んでもらう必要があります。そこに相続業務の経験、希望する働き方、事務所との相性といった条件が重なれば、出会える方はさらに絞られます。募集を始めた時点で、条件の合う方が転職を考えているとも限りません。
給与や働き方の改善、仕事の魅力の発信、採用手法の見直しは、もちろん欠かせません。それでも、採用までの期間を事務所の努力だけで確実に決めるのは難しいと思います。
全国司法書士法人連絡協議会が2026年4〜5月に実施した経営実態調査(回答148法人)でも、人材確保難による量的拡大の限界が、業界の構造的な課題の一つに挙げられています。〔1〕
「採用活動を始めれば、必要な時期までに採れるはず」という見通しは、一度見直しておきたいところです。
採用の成功だけを成長の条件にしない
資格者が一人増えるたびに、受けられる案件が増える。こうした体制は、採用が順調な間は成長できても、採用が止まると次の一手を打ちにくくなります。
たとえば、増員を見込んで集客を強化したものの採用が決まらず、既存の資格者に面談や確認が集中する。対応に余裕がなくなり、新たな相談を受けにくくなったり、紹介先への働きかけを控えたりすることも考えられます。
採用が決まっても、すぐに相続業務を任せられるとは限りません。経験に応じた教育や、事務所の方針・手順を共有する時間も必要です。「入社する時期」と「十分に力を発揮できる時期」には、差があります。
成長のたびに資格者の増員が必要になる業務フローのままでは、事業計画が採用の成否や時期に左右されやすくなります。
「来期は資格者を一人採り、相談枠を広げる」という計画には、採用が半年遅れた場合の備えも必要です。現在の人員で受けられる件数や、増員が必要になる時点を把握し、採用が決まらない間にも進められる改善策を用意しておきます。
その出発点になるのが、いまの資格者がどの仕事に時間を使っているかです。専門的な判断や相談対応に加えて、資料を探す、進捗を確認する、引き継ぎの不足を埋めるといった仕事まで、資格者に集まっていることは少なくありません。
資格者が担う専門業務と責任を土台に、周辺の準備や事務管理を整える。採用活動と並行して取り組める、組織づくりの課題だと考えています。
確認待ちの前後に改善の余地を探す
とある相続特化型の司法書士法人様では、資格者が減ったあと、書類の確認待ちが課題になっていました。スタッフが準備を進めても資格者から戻るまでに時間がかかり、修正の往復も重なっていたのです。
戸籍がそろった相続登記案件で、申請書と法定相続情報一覧図の確認にかかる時間は約20分とのことでした。仮に同様の確認が月30件あれば、それだけで月10時間になります。
面談直後の引き継ぎメモは、すでに作成されていました。それでも、戸籍の読み直しや書類どうしの照合に時間を取られていました。
必要な確認には、相応の時間がかかります。見直したいのは、そこに資料の探し直しや、指示の意図の確認し直しといった負担が上乗せされていないかです。スタッフの増員を検討する場合も、資格者に引き継ぐまでの流れを併せて点検しておくと、増員の効果が出やすくなると思います。
Samikaでは、相続分野に取り組む士業事務所の先生方に向けて、マーケティングと生産性向上のノウハウをメルマガ「相続GROWTH通信」でお届けしています。ご登録いただいた方には、特典「相続分野の経営指標レポート2026」をお送りします。
資格者の役割と補助業務の範囲を明確にする
分担を考える際には、資格ごとの法令や所属会の規則を踏まえる必要があります。
2026年10月時点の司法書士法では、登記手続の代理や法務局への提出書類の作成、それらに関する相談などが司法書士の業務とされています。税理士法でも、税務代理・税務書類の作成・税務相談が税理士業務と定められています。資格のない者によるこれらの業務は、法令上の例外を除き制限されています。〔2・3〕
業務の棚卸しでは、次の3点を整理します。
- 資格者が担う判断・相談対応・確認はどこか
- 資格者の指示・監督のもと、スタッフが補助できる事務はどこか
- どの段階で作業を止め、資格者に確認するか
たとえば、日程調整や資料の整理、進捗の記録などは、担当者と手順を決めておく。聞き取りを補助する場合も、事実の記録と専門的な助言を区別し、判断が必要になった時点で資格者につなぐ流れを用意します。
「書類作成」「手続対応」と一括りにせず、具体的な作業ごとに担当範囲を決めることがポイントです。判断に迷う工程は、資格者が所属会等に確認したうえで運用を定めます。
資格者が確認しやすい引き継ぎを整える
役割分担と併せて、資料や情報の渡し方もそろえます。
- 面談後に、依頼内容・資格者が確認した方針・未確認事項を共通の書式で残す
- 資料の保管場所や並べ方をそろえ、参照箇所を明示する
- 資格者が指示した照合項目の結果と、不一致・不明点を整理して渡す
こうした事前整理は、資格者が必要な確認を行うための準備です。原資料を含めて何をどこまで確認するかは、資格者が案件に応じて判断します。
スタッフにとっても、担当範囲や質問するタイミングが分かれば、「ここまで進めてよいのか」と迷う場面が減ります。差し戻しの理由を共有しておけば、次の案件の準備や教育にも活かせます。
生成AIやシステムを取り入れる場合も、記録の整理など目的と対象を絞ります。出力の正確性を確かめる工程を設け、資格者の判断と確認につながる流れに組み込むことが前提です。
採用を進めながら現在の体制も強くする
役割が明確になれば、採用や育成で重視する経験・適性も考えやすくなります。私たちの支援先でも、金融機関や保険会社での経験を活かして活躍しているスタッフの方がいらっしゃいます。
資格者の対応能力には上限があり、業務改善と増員の両方が必要な場面もあります。そのうえで、採用が決まるまでの期間にも、資料の準備や引き継ぎ、進捗管理を整える余地はないかを考えたいところです。
必要な判断と確認の質を保ちながら、資格者もスタッフも力を発揮できる体制をつくる。その積み重ねが、採用時期に左右されにくい相続部門の成長を支えると考えています。
Samikaでは、先生方と業務工程や役割分担を整理し、現場で運用できる形に整える支援を行っています。採用と併せて相続部門の体制を見直したい先生方は、お気軽にご相談ください。
参考資料
- 全国司法書士法人連絡協議会「2026年6月 司法書士法人経営実態調査報告書」公開サマリー(2026年4〜5月調査、回答148法人)
- 日本司法書士会連合会「司法書士の業務」(司法書士法第3条・第73条)
- 国税庁「6 税理士法違反行為」問6-1(税理士法第2条・第52条)

