金融機関の相続手続き書類への転記を自動化|相続業務の生成AI活用事例 番外編

2026.10.06 14:24

私たち株式会社Samikaには、相続や生前対策業務に取り組む士業事務所の先生方から、生成AIを使って業務を効率化できないか、というご相談が寄せられています。
この連載では、実際の支援事例をもとに、スタッフの作業を減らす方法をご紹介してきました。番外編の今回は、生成AIをほとんど使いません。前の工程で整理した情報を、金融機関の指定様式へ印字する事例です。
番外編は、遺産整理での金融機関の手続き書類です。ご紹介するのは、これまでと同じく、相続登記を中心に年間約1,000件の相続手続きを手がける司法書士法人様の事例です。

 

 

金融機関ごとに用紙が違う

遺産整理を受任すると、被相続人が取引していた銀行や証券会社ごとに、残高証明の依頼書や口座の照会書、相続手続きの依頼書を書きます。
用紙の欄の位置や記入方法は、金融機関によって違います。同じ氏名、住所、生年月日でも、元号に印を付ける用紙や、1マスに1桁ずつ書く用紙があります。取引先が5つ、6つと重なると、担当者は同じ内容を何枚も手書きし、そのたびに欄と記入方法を確かめます。枠に収める煩わしさや、書き損じて直す負担もあります。
金融機関の指定様式は、事務所が自由に変えられるものではありません。この事務所様では、様式に合わせた印字によって、スタッフの繰り返しの手書きを減らすことにしました。

 

 

用紙に、案件の情報を印字する

金融機関の用紙に、案件情報を印字する仕組みを作りました(画面の案件・氏名・住所は説明用のダミーです)。戸籍や面談シートから取り込み、確認した被相続人・相続人の情報を使います。担当者が資料を見ながら同じ氏名や日付を書き写す回数を減らせます。

面談シートの「遺産の概要」から金融機関を一覧にし、対応する用紙を選んで出力します。送付状が用意されている金融機関は、同じ画面から作れます。用紙と送付状をそれぞれ探して、共通情報を入力する手間を減らす流れです。
紹介している仕組みは、ゆうちょ銀行、野村證券、みずほ信託銀行・三井住友信託銀行の証券代行部、地元の銀行・信用金庫・労働金庫等、10種類の用紙に対応しています。「證券」と「証券」等の表記の違いはそろえて照合し、第3回の送付状にもつなげます。

ゆうちょ銀行では、この事例で用意した相続確認表や貯金等照会書等、10ページの様式に情報を印字します。元号や日付のマスも様式に合わせ、長い氏名・住所は文字を小さくして枠に収めます。同じ情報を何度も手書きし、欄の大きさに合わせて書き直す作業を減らせます。
なお、現状の仕組みでは遺言書等の有無の欄に、既定で「なし」が入ります。既定値は事実確認の代わりにはならないため、案件ごとに確認が必要です。未確認の項目は空欄にし、確認後に反映する運用が望ましいと考えています。
複写式など指定の用紙への記入が必要な書類は、転記用の下書きとして出します。印字した書類を提出できるか、原本への記入が必要かは、金融機関ごとの扱いに合わせます。

証券会社の口座照会依頼書では、この事例では相続人からの委任にもとづく照会として、事務所を依頼人欄に記載し、被相続人の情報を印字します。依頼日は空欄にし、生年月日・死亡日等の一部は手書きで補っています。代理人として照会する場合の委任状や本人確認等の必要書類は、金融機関の案内に沿って確認します。

 

 

用紙ごとの初期設定と、出力後の確認

初期設定では、白紙の用紙を読み込み、欄ごとに印字位置を合わせます。実際に印刷して、文字やチェックがずれていれば調整します。案件ごとに手書きを繰り返していた部分を減らすために、最初に様式を整える作業です。
この事務所様でも、職員さんにすべての用紙を印刷して確認していただきました。チェックが枠から外れる、数字が「年」の文字に重なる、といった指摘を受け、位置や印字方法を調整しています。読みやすさや普段の記入方法を、使うスタッフと確かめながら整えました。傾いた用紙は補正しています。

設定した様式は、案件情報を使って出力できます。担当者は印字内容と欄の位置を確かめ、自署・押印や手書きの項目を補います。金融機関が様式を改訂した場合は、最新版で印字位置や記入項目を見直します。初期設定に加えて、更新する担当者も必要です。
印字の工程では、決まった位置に決まった情報を入れる定型処理が中心です。前の工程で生成AIが読み取った情報は再利用しますが、用紙への転記に毎回AIを使う必要はありません。スタッフが困っている作業に合わせて、適した方法を選んでいます。

 

 

先生方の事務所で始めるなら

まずは利用頻度の高い金融機関について、最新版の白紙様式と、個人情報を伏せた記入見本を用意することをおすすめします。スタッフに、何度も手書きしている欄や、書き直しが多い用紙を聞くと、取り組む順番を決めやすくなります。最初からすべてに対応する必要はありません。
白紙様式は、公式サイトから取得できる場合はそのデータを使い、紙を使う場合はきれいなものを残します。繰り返しコピーした用紙は、傾きやかすれで印字位置が合いにくくなるためです。設定時には実際の印刷条件でも確認します。
導入前に、印字した様式で受け付けてもらえるか、自署や押印が必要な欄、代理人の必要書類を金融機関ごとに確かめます。印字と手書きの範囲が決まると、スタッフも出力後に何をすればよいか分かりやすくなります。

 

 

まとめ

金融機関の相続手続きでは、確認した案件情報を指定様式に印字し、スタッフの繰り返しの手書きや、枠に合わせた書き直しを減らす形にしました。用紙ごとの初期設定と改訂時の更新、人による確認を組み合わせて使います。
5回を通してご紹介したのは、スタッフが情報を拾い、写し、文言を考える負担を減らす方法です。生成AI、定型処理、人の確認を組み合わせ、実際の業務でどこが楽になるかを確かめる。その積み重ねが、先生方の事務所に合った業務改善につながると考えています。
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執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。


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