遺産分割協議書の作成に生成AIを活用|相続業務の生成AI活用事例②

2026.10.06 14:21

私たち株式会社Samikaには、相続や生前対策業務に取り組む士業事務所の先生方から、生成AIを使って業務を効率化できないか、というご相談が寄せられています。
この連載では、実際の支援事例をもとに、生成AIと定型処理をどう組み合わせ、スタッフの作業を減らしているかをご紹介します。
第2回は、遺産分割協議書の作成です。今回は2つの司法書士法人様の事例を並べ、同じ協議書でも作り方が違う理由をご紹介します。

 

 

協議書づくりの難しさは「毎回少しずつ違う」こと

遺産分割協議書は、被相続人や相続人の情報、不動産の表示など、決まった項目を正確に書き写す部分と、「誰が何を取得するか」という案件ごとに違う部分とでできています。
自宅は長男、預金は配偶者、ほかの相続人には代償金を払う、といった合意内容は案件ごとに違います。担当者は過去の協議書を探し、今回に合う文言を選び、必要に応じて条項を書き直します。この「どの書き方を使うか」に迷う時間も、作成の負担になっているのではないでしょうか。
生成AIは条項案の作成に使えますが、協議書は登記や金融機関の手続きにも用いる書類です。同じ内容でも毎回違う言い回しになると、確認する側は文章全体を読み直す必要があり、負担が増えることもあります。
そこで2つの事務所様では、決まった項目や文言は定型処理で埋め、型で対応できない部分にAIの案を使っています。共通する考え方を、事務所の業務に合わせて異なる形にしました。

 

 

作り方A:型を選び、AIに条項の案を書かせる

1つ目は、相続登記を中心に年間約1,000件の相続手続きを手がける司法書士法人様の事例です(画面の案件・氏名・住所は、すべて説明用のダミーです)。

まず、事務所で使っている協議書の型を選びます。この事務所様では「すべての財産を1名が取得する」「不動産と預金を列挙する」「相続人ごとに取得する財産を列挙する」の3パターンを用意しています。
型に収まらない内容は、相続人の合意をもとに担当者が普段の言葉で入力します。例えば「自宅の土地と建物は長男、ゆうちょ銀行の貯金は妻が取得。長男は長女に代償金300万円を支払う」と書くと、AIが条項案を作り、未確認の口座番号等も示します。白紙から文言を考える負担を減らし、合意内容に沿うかを検討する出発点にできます。

協議書本体には、事務所の様式へ、確認した案件情報を差し込みます。被相続人の本籍、最後の住所、生年月日、不動産の表示、金融機関名を再利用するため、資料を開き直して同じ内容を入力する作業を減らせます。
この事務所様では、AIの条項案を協議書に自動で入れていません。当初は末尾に差し込んでいましたが、ご相談のうえ、画面で案を確認し、必要な文言を様式へ反映する形に改めました。AIの案を「たたき台」として扱い、事務所の文言を保つためです。

 

 

作り方B:選択式で、事務所の文言をそろえる

2つ目は、別の司法書士法人様の事例です。こちらの事務所様からは「同じ情報を入れたら、毎回同じ言い回しにしてほしい」というご要望がありました。

こちらでは、署名の形式(1名1枚か全員連名か)、取得方法7通り、追加条項7種類を選ぶと、過去の文言で協議書の案が組み上がります。1名ごとの形式なら相続人の人数分を出力し、数次相続で相続人兼被相続人がいる場合の文言にも対応します。いずれの形式でも、必要な相続人の合意や署名等の確認は行います。
定型部分の文言は、事務所様からいただいた協議書19件(完成形3件とサンプル16件)から集めています。同じ条件で作ったとき、空白を除いて完成形と一字一句同じになることを、変更のたびに確かめています。これは書き方の統一を確認するもので、今回の案件に適した内容かどうかは別に判断します。
選択肢で対応できない部分は「AIへの追加指示」に書くと、AIが条項を起案して追加します。未確認の口座番号や金額は「●」のまま残し、AIが作った条項は全文を画面に表示します。定型の文言とAIの案を区別して確認できるようにしています。

 

 

どちらの作り方が向いているか

2つの作り方を並べると、次のようになります。

作り方Aは、型に収まらない条項のたたき台が欲しい事務所に向いています。作り方Bは、書き方を統一し、担当者が毎回言い回しを選び直す負担を減らしたい事務所に向いています。パターンの数だけで決めず、例外の多さや、作成後の確認にかかる手間も含めて選びます。
どちらも、分け方をAIに決めさせるものではありません。相続人の合意内容を確認し、財産、取得者、金額と文言を確定するのは、業務範囲に応じた資格者です。この事例では司法書士が最終確認を担います。相続人間で争いがある場合の交渉代理等は、弁護士への相談が必要です。

 

 

先生方の事務所で始めるなら

まずは過去の協議書を、個人情報を伏せて10〜20件ほど並べてみることをおすすめします。よく使う分け方と文言を整理し、現在の運用に合うものを選んで、定型部分を作ります。
あわせて、スタッフが普段どこで手を止めているかを聞いてみてください。過去の文例探しなのか、例外条項の起案なのか、修正後の照合なのか。負担の大きい工程が分かると、定型処理とAIをどこに使うかを決めやすくなります。
AIの案を協議書に直接入れるか、参考として表示するかも、確認する人と相談して決めます。作成だけを速くするのではなく、修正や最終確認まで含めて楽になるかを、実際の案件で確かめながら調整します。

 

 

まとめ

遺産分割協議書では、確認した案件情報と定型文言を再利用し、例外部分の起案をAIで補助しています。スタッフが文例を探し、一から文章を考える負担を減らしながら、資格者が内容を確認できる作り方を選ぶことが大切です。
次回は、委任状や送付状など、1つの案件で何種類も作る書類をボタン1つで出す事例をご紹介します。
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執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。


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