
相続・生前対策の売上が順調に伸びている事務所ほど、次の一手が見えにくくなる。
支援の現場では、そう感じる場面が少なくありません。
問い合わせは来ている。
受任もできている。
売上も数年前より増えた。
それでも「ここから先をどう伸ばせばいいのか」が見えない、という状態です。
原因は、努力不足でも、集客不足でもないことが多いと思います。
相続事業には、売上の規模ごとに現れやすい「成長の壁」があり、壁の正体は段階によって変わります。
そのため、これまで効いていたやり方が、次の段階では効かなくなります。
この記事では、司法書士事務所を例に、相続売上の規模ごとに現れる5つの壁を整理します。
先生方の事務所が今どこにいるのかを確かめる材料にしていただければ幸いです。
売上規模ごとに現れる5つの壁
相続売上の規模と、そこで現れやすい壁をまとめると、次のようになります。

売上数値は、相続業務に取り組む司法書士事務所の場合の目安です。
税理士事務所では1件あたりの単価が違うため、水準が変わります。
また、壁の順番は事務所によって前後します。
大事なのは金額そのものではなく、「今の伸び悩みは、どの種類の壁によるものか」を見分けることです。
なお、以下で挙げる件数や金額は、構造を分かりやすくするためのモデルケース(想定例)です。
特定の事務所の実績ではありません。
壁1:集客の壁(相続売上 〜3,000万円)
最初の壁は、安定して相談が入る集客チャネルがないことです。
- 紹介が中心で、月によって相談件数が大きくぶれる
- Webサイトはあるが、問い合わせにつながっていない
- 集客の費用を何にかければよいか、判断がつかない
たとえば、相談が多い月は15件、少ない月は4件という事務所を想定します。
年間では100件前後の相談があっても、月ごとの振れ幅が4倍近くあると、人を採用するか、広告費をかけるかといった判断の根拠が持てません。
忙しい月は対応に追われ、落ち着いた月は不安になる、という繰り返しになりがちです。
この段階の課題は、はっきりしています。
軸になる集客チャネルを1つ、育てきることです。
Webサイトと広告、相談会やセミナー、葬儀社や金融機関からの紹介など、選択肢はいくつもあります。
手を広げるより、地域と体制に合うものを1つ選び、相談が毎月入る状態をつくることが先です。
目安になるのは、月の相談件数の「下限」が読めるようになることです。
たとえば「少ない月でも10件は入る」と言える状態になれば、採用や投資の判断がしやすくなります。
この壁は、集客の努力で越えられます。
難しくなるのは、その次からです。
壁2:特定スタッフ依存の壁(〜5,000万円)
相談が安定して入るようになると、次は「誰が面談するか」で売上が決まるようになります。
- 所長やベテランが面談すると受任できるが、他のスタッフだと決まらない
- 提案の内容や見積が、担当者によって違う
- 所長の予定が埋まると、新しい相談を受けられない
受任が、特定の人の経験と話し方に支えられている状態です。
相談を増やしても、その人の時間が上限になります。
月40件の相談がある事務所を想定してみます。
所長が面談できるのは月20件までで、受任率は70%。
残りの20件はスタッフが担当し、受任率は40%だとします。
この場合、受任は所長の14件とスタッフの8件を合わせて、月22件です。
ここでスタッフの受任率が55%になると、受任は月3件増えます。
年間で36件、平均単価を15万円と置けば、約540万円の差です。
相談件数を1件も増やさずに生まれる差だという点が、この壁の特徴だと思います。
越える方向性は、面談を「人の腕」から「事務所の型」に移すことです。
商品と料金、提案の基準、面談の進め方をそろえます。
所長が面談で何を聞き、どの順番で何を提案しているのかを言葉にするところから始めると、取り組みやすくなります。
経験の浅いスタッフでも、一定の水準で受任できる状態を目指します。
壁3:資格者依存の壁(〜8,000万円)
受任が安定すると、今度は業務の処理が追いつかなくなります。
- 案件の実務が、司法書士など資格者に集中している
- 資格者が忙しく、進行の遅れや確認待ちが増える
- 資格者を採用しないと、これ以上受任できない
壁2が「誰が受任するか」の問題だとすれば、壁3は「誰が処理するか」の問題です。
資格者でなければできない業務と、そうでない業務が切り分けられていないことが原因です。
相続登記1件に、合計10時間の作業がかかると想定します。
そのうち、資格者の判断や最終確認が欠かせない時間を3時間とすると、残りの7時間は、戸籍の収集、資料の整理、書類の下準備、お客様への進捗連絡といった工程です。
この10時間をすべて資格者が担っている限り、受任できる件数は資格者の人数で決まってしまいます。
資格者を採用すれば件数は増やせますが、採用は簡単ではなく、人件費も上がります。
相続業務の1人あたり粗利は、司法書士事務所では年間700〜900万円程度が一般的な目安で、1,000万円を超えるとかなり高い水準です。
資格者の増員だけで売上を伸ばしていくと、この数字は上がりにくくなります。
越える方向性は、業務の工程を分け、役割分担と標準の流れをつくることです。
資格者は判断と確認に集中し、それ以外の工程は、資格者の指示と確認のもとでスタッフが進められる形にします。
書類の下書きや情報の整理には、生成AIも使えるようになってきました。
壁4:業務範囲の壁(〜1億2,000万円)
業務が回るようになっても、司法書士業務だけでは、売上の伸びに限りが出てきます。
- 相続登記や遺産承継が終わると、お客様との関係も終わってしまう
- 遺言、家族信託、不動産の売却などの相談を、次の仕事につなげられていない
- 相続税申告や不動産など、他の専門家が必要な相談に、事務所として応える形がない
相続のお客様は、手続きが終わった後にも、二次相続への備えや不動産の扱いなど、次の課題を抱えています。
そこに応えられないと、1件あたりの売上は頭打ちになります。
年間300件の相続手続きを完了している事務所を想定します。
手続き後に、遺言や家族信託などの生前対策、不動産の売却といった次の相談につながる割合が3%なら、年間9件です。
これが10%になると、30件になります。
次の相談の平均単価を30万円と置けば、270万円と900万円で、年間630万円の差です。
しかも、この相談には新たな集客費用がほとんどかかりません。
すでに信頼関係のあるお客様からの相談だからです。
越える方向性は2つあります。
1つは、手続き後も関係を続け、次の相談を受けられる流れをつくること。
もう1つは、自事務所で扱えない業務について、他士業や関連会社と連携する体制を整えることです。
相続手続きを「終わり」ではなく、生前対策を含む次の相談の「入口」として設計し直す段階だと考えられます。
壁5:組織化の壁(〜1億5,000万円)
最後は、所長一人では全体を見きれなくなる壁です。
- 所長が、すべての案件とスタッフを把握できなくなる
- 相続部門を任せられる責任者がいない
- 採用、教育、評価のやり方が決まっておらず、人が増えるほど品質がぶれる
ここまでは、所長の目と感覚で回せていました。
けれども人数と案件が増えると、数字ではなく感覚で回す「なんとなく経営」は通用しなくなります。
相続部門が10名、進行中の案件が常時150件という規模を想定します。
所長が1件あたり月に10分だけ状況を確認するとしても、合計で25時間かかります。
面談や所長自身の案件を抱えながら、この時間を毎月確保し続けるのは現実的ではありません。
越える方向性は、相続を一つの事業部門として経営することです。
反響数、面談数、受任率、平均単価、1人あたり粗利といった数字を、月次で確認します。
そのうえで責任者に任せ、採用と教育の型を持ちます。
所長がすべてを見るのではなく、数字と責任者を通じて全体を把握する形に切り替えるということです。
2つ目以降の壁は、集客では越えられない
5つの壁を並べると、一つのことが分かります。
集客で越えられるのは、最初の壁だけです。
壁2から壁5は、相談が増えるほど、かえって深刻になります。
面談できる人が足りない。
処理が追いつかない。
次の提案ができない。
全体が見えない。
先ほどの壁2の事務所で考えてみます。

月40件の相談で受任は22件、受任率は55%でした。
ここで広告費を増やし、相談が月60件になったとします。
所長が面談できるのは20件のままなので、増えた20件はすべてスタッフが担当します。
受任は所長14件、スタッフ16件の計30件で、受任率は50%に下がります。
相談1件を獲得する費用を2万円と置くと、追加の20件に40万円をかけて、増えた受任は8件です。
受任1件あたりの獲得費用は、それまでの約3.6万円から、追加分では5万円に上がります。
売上は増えても現場は苦しくなり、利益は残りにくくなる、という構造です。
「相続売上は伸びたのに、その先が越えられない」と感じたら、集客の量ではなく、「壁の種類」の違いを疑ってみていただきたいと思います。
先生方の事務所は、今どの壁にいるか
現在地を確かめるには、次の5つの問いが役に立ちます。
- 相談は、毎月安定して入っているか
- 所長やベテラン以外が面談しても、同じように受任できているか
- 資格者の確認のもとで、スタッフが進められる工程は、十分にあるか
- 手続きが終わったお客様から、次の相談が来ているか
- 相続部門の数字を、所長以外の人も見て動いているか
上から順に見て、最初に「いいえ」となった問いが、今向き合うべき壁です。
複数の問いに「いいえ」がつく場合もあります。
その場合も、基本的には上にある壁から取り組むほうが、結果的に早く進めるのではないでしょうか。
上の壁が残ったまま下の壁に手をつけても、効果が出にくいためです。
次回の記事では、それぞれの壁を越えるために必要な取り組みと、Samikaが支援している内容を紹介します。
「自分の事務所が今どの壁にいるのか、一度整理してみたい」という場合は、お気軽にご相談ください。
