「住所等変更登記の義務化」を司法書士はどう活用すべきか?

2026.04.17 10:57

それでは、相続分野に注力する司法書士にとって、この制度変更は意味のないものなのでしょうか。

私はそうは思いません。住所等変更登記は、それ単体では売上には繋がりにくいかもしれません。しかし「過去にお付き合いがあった顧客との関係を、生前対策の相談につなげるきっかけ」として活用できる制度だと考えています。

本記事では、その具体的な活用方法を提示します。


2026年4月1日、住所等変更登記の義務化スタート

まず制度の概要を確認しておきましょう。

令和8年4月1日から、不動産所有者の住所・氏名に変更があった場合、変更日から2年以内に登記申請をすることが義務付けられました。正当な理由なく期限を過ぎた場合は、5万円以下の過料が科される可能性があります。

施行日以前の変更についても対象となり、令和10年3月31日まで猶予期間が設けられています。


注目すべきは、登録免許税が非課税化されたことです。従来は不動産1筆につき1,000円の登録免許税が必要でしたが、この負担がなくなることで、多数の不動産を所有する方にとっても経済的ハードルが下がりました。


同時に「スマート変更登記」も施行されました。これは、事前に検索用情報(氏名、ふりがな、生年月日など)を法務局に申出しておくことで、引っ越し等の際に法務局の登記官が職権で住所等の変更登記を行う制度です。費用無料・押印不要・Web完結という仕組みで、申出さえしておけば将来の住所変更登記が自動化されます。

これらの制度は、2021年の民法・不動産登記法改正の流れで創設されたもので、所有者不明土地問題の解消を目的としています。既存記事「所有不動産記録証明制度が変える、司法書士や相続登記サポートの提供価値」でご紹介した所有不動産記録証明制度と合わせて、不動産の所有者情報を常に最新の状態に保つための一体的な政策です。


本制度の対象者となるターゲット像

この制度の対象となる人々の具体像を整理してみましょう。令和6年の国土交通省調査によると、所有者不明土地の発生原因の29%が「住所変更の未登記」によるものです。地籍調査の追跡調査では、登記簿上の住所と現住所が一致しない不動産が全体の25〜55%に達することが明らかになっています。

一定割合の不動産で登記簿上の住所と現住所が一致していない実態があり、多くの不動産所有者にとって無関係とは言えない状況です。


典型的な該当者は、以下の4パターンに整理できます。

① 地方の地主・大家(60〜80代) 先祖代々の土地を相続したときの登記住所が「実家の住所」のままで、成人後に都市部に引っ越した方。今も地元に農地・山林・貸宅地を複数所有しているが、そもそも何筆持っているか自分でも把握していないケースが典型的です。

② マンション投資家(50〜70代) バブル期から2000年代にかけて複数の投資用マンションを購入した方。登記簿上の住所は「購入時に住んでいた自宅」となっており、複数回引っ越した結果、物件ごとに登記簿上の住所がバラバラになっているケースがあります。

③ 相続で実家を取得した高齢女性(60〜70代) 10年以上前の親の相続で実家を取得したが、その後、配偶者の転勤や子どもとの同居で転居した方。結婚で姓も変わっている場合は、住所と氏名の両方が未登記となっています。

④ 資産管理会社オーナー(50〜70代) 資産管理会社名義で不動産を所有している中小企業経営者や富裕層。会社の本店移転に伴い、法人名義不動産の本店所在地が未更新のままになっているケースです。


お気づきでしょうか。ここに挙げた4パターンは、相続・生前対策の相談に来る顧客層と重複する点も多く、ここに本制度の活用ポイントがあります。


住所等変更登記そのものは売上にならない

期待値を適切に設定しておく必要があります。住所等変更登記の報酬相場は、1件あたり数千円から1万円程度です。相続登記(10〜30万円)と比べると、明らかに1桁低い単価です。

しかも、登録免許税も非課税化されたため、実費回収の要素も薄くなりました。

さらに大きな変化は「スマート変更登記」の存在です。この制度により、事前に検索用情報を登録しておけば、法務局が職権で変更登記を実行します。つまり、国の制度設計として住所変更登記業務は将来的に縮小していく方向にあります。

過料は最大5万円とされており、相続登記義務化と比較すると心理的なインパクトは限定的と考えられます。

「住所等変更登記の義務化で仕事が増える」と単純に捉えると、期待はずれに終わる可能性が高い、というのが正直な見方です。


それでも、相続分野に注力する司法書士にとって重要な理由

ここからが本題です。住所等変更登記を単体業務として捉えるのではなく、「接点づくりの機会」として捉え直すことが重要です。

① 制度の当事者層が、生前対策の見込み客層と多くの点で重なる傾向にある

前述した4パターンの該当者は、まさに生前対策の相談を受けたい顧客層です。普段はこちらからアプローチする理由がない相手に、「制度上の義務が発生した」という客観的な理由で接点を作ることができます。


② 所有不動産記録証明制度と実務的にセットになる

令和8年2月2日に施行された所有不動産記録証明制度により、所有不動産が「見える化」されました。しかし、登記簿上の住所と現住所が一致していない場合、所有不動産の把握に支障が出るケースもあるため、住所変更登記を先に行うことが実務上望ましい場合があります。

つまり、「まず住所変更登記を済ませ、それから所有不動産記録証明書を取得する」という実務上の順序が生まれます。この流れは、既存記事でご紹介した所有不動産記録証明制度の活用方法と直結します。


③ 生前対策の「入口」として自然に機能する

住所変更登記の相談から入り、以下の提案へ自然に展開することができます。

  • 所有不動産の棚卸し(所有不動産記録証明書の取得)
  • 不動産整理の検討(処分すべきか、残すべきか)
  • 遺言書の作成
  • 家族信託の検討
  • 相続税対策

住所等変更登記は、それ自体を収益源にするのではなく、本命である生前対策・相続関連業務への自然な入口として設計することで、大きな価値を生む制度だと捉えるべきです。


具体アクション設計 — 過去の顧客との関係を再構築する4ステップ

実際に動き出すための具体的な設計を提示します。

ステップ1:過去の顧客リストの棚卸し

過去に相続登記・不動産登記・会社登記などで接点があった顧客の連絡先を整理します。メールアドレス、LINE、郵送先など、現時点で連絡可能なチャネルを棚卸しし、「最後の接点から1年以上経過している休眠顧客」を特に重点対象とします。


ステップ2:一斉に注意喚起の情報発信を行う

LINEやメルマガで、住所等変更登記の義務化について分かりやすく情報提供します。ポイントは「〇〇さんは該当しますか?」と、自分ごととして考えてもらう問いかけです。

スマート変更登記の選択肢も合わせて紹介し、「事務所への依頼」と「自分で手続き」の両方を選べる形で案内することで、信頼度を上げる設計にします。

配信内容の例:

2026年4月1日から、不動産の住所・氏名変更登記が義務化されました。

該当する方はいませんか? ・引っ越しをしたが、登記簿の住所が昔のままの方 ・結婚・離婚で姓が変わった方 ・法人の本店を移転された経営者の方

変更日から2年以内に登記申請が必要で、正当な理由なく放置すると5万円以下の過料が科される可能性があります。

ただし、事前に「スマート変更登記」の申出をしておけば、今後の住所変更は法務局が一定の条件を満たす場合には、法務局の職権により住所変更登記が行われる仕組みでもあります。

ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。


ステップ3:反応のあった顧客に個別対応

「自分も該当しそうだ」と反応した顧客に対し、以下のフロント商品を用意します。

  • 住所変更登記の手続き代行(数千円〜1万円の低価格で受任)
  • スマート変更登記の初期設定サポート(検索用情報の申出手続きの代行)
  • 所有不動産記録証明書の取得代行(所有不動産の全体像の把握)

ここでは売上を追わないことが重要です。接点を復活させることが目的です。


ステップ4:面談から生前対策の提案へ

フロント商品の対応をきっかけに、対面・オンラインでの面談機会を作ります。面談の中で、顧客の家族構成・資産状況・今後の希望を丁寧にヒアリングし、生前対策(遺言・家族信託・相続税対策・不動産整理)のバックエンド商品へ自然に展開します。


このフローの要点

住所等変更登記そのものの売上は数千円〜1万円と小さいですが、過去の休眠顧客と再びつながり、生前対策面談に至った場合、1件あたり数十万〜数百万円の受任につながる可能性があります。

重要なのは、住所等変更登記を「目的」ではなく「手段」として設計することです。


義務化を「接点づくりの機会」として捉え直す

2026年4月1日からの住所等変更登記の義務化は、単体の業務として見ると、報酬単価の低さや業務縮小化という側面から、事務所経営へのインパクトは限定的です。

しかし視点を変えれば、過去に関係性のあった顧客を対象に、「義務化への対応」という自然な名目で情報発信できる、絶好の機会でもあります。司法書士側からは能動的にアプローチしづらかった顧客層に、正当な理由で接点を作れる、数少ないタイミングです。


2024年の相続登記義務化、2026年2月の所有不動産記録証明制度、そして2026年4月の住所等変更登記義務化。この3つの制度変更を一貫して捉えれば、司法書士の役割は「依頼されたら登記を実行する受動的な存在」から、「顧客の不動産管理全体を継続的に見守る伴走者」へと進化していることが見えてきます。

一つひとつの登記業務は、単価も業務量も決して大きくない場合もあります。しかし、顧客との関係性を継続的に築き、生前対策から相続発生、そして次の世代への承継まで一貫して関わり続けることで、1人の顧客から生涯にわたって得られる価値(顧客生涯価値)は、大きく変わっていきます

住所等変更登記の義務化を、その第一歩として活用していただければ幸いです。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。


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