身元保証・死後事務委任業務を自事務所だけで抱えずに対応する方法

2026.08.20 19:05

 

 

実働を担える業種と組むという発想

配偶者や子がおらず、頼れる親族もいない方——いわゆる「おひとり様」からの相談は、すでに士業事務所の現場にも届いています。
それでも、身元保証や死後事務への対応に踏み出せていない事務所は少なくありません。

検討していないわけではありません。
むしろ、真面目に検討すればするほど、「自分たちだけで対応するのは難しい」という結論になり、そこで止まってしまう。
その背景には、「このサービスを提供するなら、すべて自事務所で対応しなければならない」という前提があるのではないかと思います。

 

 

身元保証、死後事務委任業務に着手できない理由

多くの事務所にとって、ハードルになりやすいのは法律業務そのものより、その周辺にある実務です。

遺言書作成、死後事務委任契約、任意後見契約。
こうした業務は士業の専門領域と接続しており、必要な体制を整えることで対応できる部分です。

一方で難しいのが、その周辺にある実働です。
緊急時の駆けつけ、日常の見守り、入院時の付き添い、施設入居時の保証人対応。
こうした業務まで担おうとすれば、継続的な連絡体制や、実際に動ける人員が必要になります。
士業事務所が自前ですべてを抱えるのは、決して簡単ではありません。

結果として、
「ニーズがあることは分かっている。でも、うちでは対応できない」
という結論になってしまいます。

一方で、需要側の数字を見ると、この問題は今後さらに大きくなっていきます。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(令和6年推計)では、65歳以上の単独世帯は2020年の738万世帯から、2050年には1,084万世帯へ増え、一般世帯総数の20.6%を占めるとされています。
同じ推計では、65歳以上の単独世帯に占める未婚者の割合も、男性では33.7%から59.7%へ上昇する見通しです。

頼れる親族がいない高齢者への対応は、今後、一部の特殊なケースではなく、多くの事務所が向き合うテーマになっていくと考えられます。

 

 

「自事務所で全部やる」以外の選択肢がある

ここで一度、「すべて自事務所で対応する」という前提を外して、この分野の業務を分解してみます。
すると、自事務所で担うべき部分と、外部の専門事業者と連携できる部分が見えてきます。

士業が担うのは、遺言書作成、死後事務委任契約、任意後見契約、家族信託の設計支援、そして相続発生後の遺言執行や相続手続。
一方で、身元保証、緊急時の駆けつけ、見守り、入退院対応、生活支援などは、外部の専門事業者と連携できる領域です。


大事なのは、後者を「自分たちが苦手だから外注する」と捉えないことだと思います。
そもそも、こうした実働を専門としている事業者が存在します。
自事務所ですべてを抱えるよりも、それぞれの専門領域を担える事業者と役割を分けたほうが、結果として顧客に提供できるサービスの質も高めやすくなります。

報酬を下げる話でも、責任を外部に転嫁する話でもありません。

「自事務所はどこまでを担い、どこから先を他業種と連携するのか」
その線をどう引くかという、業務設計の話です。

 

 

実働を担える業種は、すでにエリアの中にある

では、誰と組むのか。
有力な候補の一つが、地域で複数の介護・福祉サービスを展開している事業者です。
理由は大きく4つあります。


第一に、訪問介護・デイサービス・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームなどを運営している事業者であれば、日常的にスタッフを配置し、高齢者を支える運営体制を持っています。
第二に、入退院時の支援や施設入居に伴う対応など、高齢者の生活に関わる実務との接点があります。
第三に、居宅介護支援事業所を運営していれば、ケアマネジャーを通じて、身寄りの少ない高齢者の課題を早い段階で把握する機会があります。
第四に、近年では終活やシニア向け相談の窓口を設ける介護事業者もあり、士業との連携を検討しやすい土台を持つ事業者もあります。


規模感をモデルケースで考えてみます。
居宅介護支援事業所を含む複数拠点を運営し、ケアマネジャーが5名在籍している事業者を想定します。
1人あたり35名の利用者を担当しているとすれば、常時175名の高齢者と接点がある計算です。
仮にそのうち1割が頼れる親族のいない方だとすれば、1社で17〜18名。
商圏内で3社と連携できれば、50名規模の層との接点が視野に入ります。

もちろん、これは考え方をイメージするためのモデルケースであり、特定の事務所や介護事業者の実績値ではありません。
ただ、1社との連携でも、一定数の潜在的な相談者との接点が生まれ得ることはイメージできると思います。

 

 

連携先を見分ける3つの条件

候補となる事業者を探す際は、まず次の3点を確認すると絞り込みやすくなります。


1.複数の事業所・サービスを運営しているか
継続的に高齢者を支援できる人員や運営体制があるかを見る一つの目安になります。

2.終活・シニア相談の窓口を持っているか
相続・終活分野や士業連携への関心を把握する材料になります。

3.居宅介護支援事業所を運営しているか
ケアマネジャーを通じて、高齢者やその家族の困りごとを把握できる接点があるかを見るポイントです。


全国展開する終活相談サロンなどのフランチャイズに加盟している事業者もあり、そうした看板が一つの目印になることもあります。
ただし、加盟しているかどうか自体が重要なのではありません。
見るべきなのは、自事務所と役割を補完し合える体制と顧客接点を持った地域事業者かどうかです。

 

 

打診は「お願い」ではなく「相互紹介」として

連携を持ちかける際にも、一つポイントがあります。

「身元保証業務をお願いしたい」という一方的な依頼から入ると、先方にとっては、自社の負担だけが増える話に見えてしまいます。
しかし、介護・福祉事業者側にも、士業と連携することで解決しやすくなる課題があります。


例えば、身元保証人や緊急連絡先の確保が難しく、施設入居を進めにくいケース。
あるいは、利用者が亡くなった後の手続きを誰が担うのか分からず、現場が対応に困るケースです。

こうした場面で、士業側が遺言・死後事務・相続手続などを担える体制を持っていれば、介護事業者側にとっても対応できる範囲が広がります。


つまり、この連携は「こちらから仕事をお願いする」だけの関係ではありません。
介護・福祉事業者からは、法務・相続・死後事務の相談を紹介してもらう。
士業側からは、身元保証や生活支援が必要な顧客を紹介する。
双方が自社だけでは解決しにくい領域を補完する関係として設計することで、相互紹介として成立しやすくなります。


最初の打診も、
「身元保証をお願いしたい」
ではなく、
「お互いのお客様の困りごとを、役割分担して解決できないでしょうか」
という入り方のほうが、話の意味合いは大きく変わります。

 

 

進める際の注意点

もちろん、連携先であればどこでもよいわけではありません。
特に確認しておきたいのが、預託金の管理方法です。

2024年6月には、内閣官房・内閣府・消費者庁など関係府省庁の連名で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が公表されています。
前払金(預託金)を預かる場合には、事業者の運営資金と明確に区分して管理することなどが示されており、2026年8月時点で連携先を確認するうえでも重要な指針の一つです。


サービス内容だけでなく、預託金の管理方法や事業の継続性なども確認しておく必要があります。
連携先で問題が起これば、自事務所の顧客との関係や信用にも影響しかねません。

もう一つは、契約上の責任範囲です。
士業事務所が何を担い、連携事業者が何を担うのか。
顧客との契約関係を含め、役割と責任の境界を曖昧にしたままスタートしないことが重要です。

 

 

まずは商圏の事業者を数社挙げるところから

ニーズがあることは分かっている。
それでも動けていない。
そうであれば、問題は「自事務所にできるか、できないか」ではなく、サービス全体をどう設計するかにあるのかもしれません。

まずは商圏内で、介護・福祉事業を複数展開している事業者を数社リストアップするところから始めてみてはいかがでしょうか。

弊社が支援する相続特化型の司法書士法人でも、地域の介護・福祉事業者と連携し、

  • 身元保証・生活支援は連携事業者
  • 遺言・死後事務・遺言執行は士業事務所

という役割分担で、サービスの構築を進めています。

自事務所ですべてを抱えるのではなく、自分たちが担うべき領域に集中し、それ以外は適切な事業者と組む。
身元保証・死後事務のように実働範囲が広いサービスほど、この発想が重要になるのではないでしょうか。

自事務所でどこまでを担い、どこから外部と連携するのか。
この線引きやサービス設計でお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

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