生前対策相談を増やしたいなら、相談会の前に「家族の会話」をつくる

2026.08.07 11:00

まだ具体的に話せていない人のうち、約半数が「親と相続について話したい」と考えています。
一方で、相続や親のお金について専門家に相談した経験がある人は、3.2%です。

この大きな差を、単純に「関心が低いから」だけで説明するのは難しいと思います。
関心から相談に至るまでの工程が、多くの事務所でまだ十分に設計されていない。

直近の調査データは、そう読むこともできるのではないでしょうか。

  

話したい人は約半数、相談した人は3.2%

Sasuke Financial Lab株式会社が2026年8月6日に公表した「親の相続に関する意識調査」の結果です。
親または義親が健在の30〜50代400人を対象に、2026年7月10日にインターネットで実施されています。


親の預貯金・不動産・保険などを「詳しく把握している」人は、【6.8%】。
「ほとんど・全く把握していない」人は55.0%です。
相続について親と「具体的に話したことがある」人は10.3%「全く話したことがない」人は47.0%。
親が遺言書やエンディングノートを「用意していないと思う」は68.8%、「わからない」は24.3%でした。


ここまでなら、「やはり関心が低い」という読み方もできます。
注目していただきたいのは、その次の数字です。

必要性を感じていない人ばかりではありません。まだ具体的に話せていない359人のうち、【約半数にあたる178人(49.6%)が、お盆に「話す予定がある」「機会があれば話したい」と回答】しています。

そして、話せていない理由として最も多いのが、【「切り出すタイミングがわからない」の37.8%】です(この設問の有効回答は344人)。
「必要性を感じない(資産が少ない・親が元気など)」23.5%、「縁起でもない気がする」16.9%を上回っています。

つまり、関心がないというより、【会話を始めるきっかけをつかめていない層が相当数いる】と見ることができます。

 

 

「50代になれば動く」とは限らない

年代別のデータも見ておく価値があります。
親の資産を「ほとんど・全く把握していない」割合は、30代63.7%、40代50.7%に対し、【50代でも45.6%】

相続について「全く話したことがない」割合も、50代で36.7%あります。
年代が上がれば自然に準備が進む、という前提は成り立ちにくいと考えられます。

 

顧客の5ステップと、事務所の商品が置かれている位置

生活者が生前対策にたどり着くまでの過程を分解すると、おおむね次の順序になると考えています。


多くの事務所が用意している「遺言相談」「家族信託相談」「生前対策相談」は、このうち【4〜5段階目の商品】です。

一方、調査では「具体的に話したことがある」人は10.3%にとどまります。
多くの生活者は、まだ「家族で話す」「情報を整理する」という初期段階にいると考えた方が、実態に近いのではないでしょうか。

実際、認知されている対策は「遺言書の作成」79.3%、「実家の片付け・生前整理」67.8%、「生前贈与」64.5%と高い一方で、「専門家(税理士・FP・弁護士など)への事前相談」は【20.8%】にとどまります。

専門家への相談について「特に考えていない」は84.5%です。


【商品が悪いのではなく、商品を必要と認識できる地点まで顧客が来ていない、という距離の問題です。】


「遺言相談会」「家族信託セミナー」のように、個別の対策を前面に出した企画は、4〜5段階目に来た人を受け止める施策としては有効です。
ただ、それだけで1〜2段階目にいる生活者を専門家相談まで運ぶのは、簡単ではありません。

  

入口を「相談」から「家族の会話」へ

そこで支援先へお勧めしたいのは、相談会の企画より先に、【家族が相続の話を始めるためのコンテンツをつくること】です。

同調査の自由記述で挙がったテーマをベースに、実務上確認しておきたい項目を加えると、たとえば次の7項目に整理できます。

  • 大切な書類はどこにあるか
  • 利用している銀行・証券会社はどこか
  • 生命保険に入っているか
  • 実家を将来どうしたいか
  • 借入れ・保証債務はないか
  • 葬儀やお墓について希望があるか
  • 判断能力が低下したとき、誰に頼みたいか


自由記述では、実家や土地の扱い、資産と重要書類の保管場所、兄弟姉妹間の分配方法、親自身の希望の記録、借入れやお墓の扱いといった論点が、実際に生活者の言葉として挙がっています。


【顧客が知りたいことの多くは、すでに顧客の側から言語化されている】ということです。
そこに、判断能力低下時の備えのように、実務側からしか出てこない論点を足す。
これが、調査データを事務所の資産へ翻訳する作業になります。

「お盆に親と確認したい7つのこと」「親が70歳を超えたら家族で確認すること」といった形にまとめれば、配布物にもセミナー資料にも転用できます。

 

 

KPIを一段手前に置く

ここで重要なのは、いきなり相談件数をKPIにしないことです。

まず見るべきなのは、

  • チェックリストの配布数・ダウンロード数
  • 実際に家族で話してみた人の数
  • 回答後に相談を希望した人の割合


といった、相談より一段手前の指標です。

LINEでのフォローや簡単なアンケートを組み合わせれば、「実際に家族で話したか」まで追うこともできます。
配布100件あたり、相談化率3%なら3件、5%なら5件、10%なら10件。
実績が蓄積されて相談化率が見えてくれば、目標とする相談件数から必要な配布数を逆算できるようになります。
従来「相談会への申込み」だけを入口にしていた事務所にとって、これまで接点を持てなかった層との新しい導線になり得ます。

なお、こうしたコンテンツを届ける時期については、お盆や年末年始など家族が集まるタイミングの活かし方を別記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。

 

 

相談会ではなく、4段階の導線をつくる

実務的な結論として、次の形をお勧めします。

  1. 家族向けの記事・SNS投稿
  2. 「親と確認したい7項目」チェックリスト
  3. チェック結果に応じた解説と、「専門家に相談すべき目安」の提示
  4. 遺言・任意後見・相続税・不動産などの個別相談


専門家への相談は、4番目に置きます。

その手前の1〜3を持っていないと、初期段階にいる生活者はいつまでも到達しません。

なお、今回の調査は、保険比較・FP相談サイトを運営するSasuke Financial Lab株式会社による400人規模のインターネット調査であり、日本全体を断定できる統計ではありません。

ただ、導線設計を考える材料としては、かなり使いやすいデータだと考えています。

今回の数字が示しているのは、生前対策の需要がないということではないと思います。


【相談に至るまでの中間コンテンツが、事務所側にない。】

増やすべきなのは相談会の回数ではなく、その手前の階段なのではないでしょうか。


出典:「親の相続に関する意識調査」
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部(Sasuke Financial Lab株式会社)調べ
調査日:2026年7月10日/有効回答400名
調査記事:https://www.navinavi-hoken.com/articles/2026-inheritance-survey
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000278.000027965.html


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

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