
当ブログで以前公開した「葬儀社から相続案件の紹介を得るための葬儀社連携」についての記事は、ありがたいことに今もよく読まれている人気記事の一つです。
WEB集客の競争が激しくなるなか、「相続の商流の川上」にあたる葬儀社をチャネルとして開拓したい、というニーズは年々高まっています。
ただ、ここ最近、ご支援先の現場やご相談のなかで強く感じることがあります。
それは、葬儀社へのアプローチの“正解”が、確実に変わってきているということです。
以前の記事でお伝えした内容は、「葬儀後に発生した相続手続きのお客様を送客してもらう」という、いわば“発生後の連携”が中心でした。
本記事は、その続編・アップデートとして、これからの葬儀社連携の切り口についてお話しします。
「葬儀施行顧客の送客+手数料」が、通用しにくくなっている
まず、これまでの定番アプローチを振り返ってみます。
士業事務所が葬儀社に対して行う営業の多くは、「葬儀をされたお客様で相続手続きが必要な方を紹介してください」「その代わりに紹介手数料をお支払いします」という形でした。
このアプローチ自体が間違っているわけではありません。
ただ、同じことを考える事務所が増えた結果、葬儀社から見ると「またその話か」という、ありふれた提案になってしまっているのが実情です。
相続マーケット参入事務所増加、葬儀社への営業増加、家族葬増加による単価低下、葬儀社の事前相談重視などの影響で、葬儀後顧客の送客だけを目的とした提携提案は差別化が難しくなっています。
具体的には、二つの壁にぶつかりやすくなっています。
一つは、価格と規模の壁です。
大手の士業法人が、より高い紹介料や手厚い体制を武器に同じ葬儀社へアプローチしてくると、中小の事務所は条件面で太刀打ちしにくくなります。
もう一つは、先約の壁です。
すでに別の士業事務所と提携している葬儀社に対して、「発生後の相続手続き」という同じ土俵で後から割って入るのは、簡単ではありません。
発生後の相続手続きは、もちろん事務所にとって重要な“本丸”です。
しかし、そこを“入口”にして関係を築こうとすると、コモディティ化した提案合戦に巻き込まれてしまう。ここに、いまの葬儀社営業の難しさがあります。
発想の転換:「紹介してもらう」から「紹介してあげる」へ
ではどうするか。
鍵になるのは、葬儀社との向き合い方を「もらいに行く」から「与える」へと切り替えることです。
「お客様を紹介してください(もらいに行く)」ではなく、「一緒に見込み客をつくりましょう」「御社だけでは受けきれない部分を、私たちが担います(与える)」という立ち位置に回る。
この転換が、コモディティ化した提案から抜け出す出発点になります。
では、葬儀社が本当に欲しいものは何でしょうか。
発生後の相続案件……ではありません。葬儀社が喉から手が出るほど欲しいのは、“生前の葬儀見込み客”です。
家族葬の浸透などで葬儀単価が下がり、新規顧客の獲得コストが上がり続けるなか、亡くなってから接点を持つのではなく、生前のうちに「いざという時はここに頼もう」と決めてもらえる関係を、葬儀社は強く求めています。
ところが、生前の見込み客づくりは、葬儀社が単独で取り組むには難しい領域です。
「終活」「おひとりさまの備え」といったテーマで生前から信頼を獲得するには、葬儀の知識だけでは足りないからです。
士業だからできる価値:生前対策・おひとりさま × 死後事務委任契約
ここに、相続・生前対策に強い士業事務所が貢献できる余地があります。
生前対策、おひとりさま相続、身元保証、死後事務委任——これらは、まさに葬儀社が単独では受けきれない領域です。
士業がこの部分を担うことで、葬儀社にとっては「生前の見込み客を一緒につくってくれるパートナー」になれます。
そのなかでも、特に注目しているのが、「死後事務委任契約」を切り口にする方法です。
死後事務委任契約とは、本人が亡くなった後の事務葬儀の手配、関係先への連絡、契約解約手続きなどを、生前に第三者へ委任しておく契約です。
ここで重要なのは、遺言との違いです。
遺言は相続財産の承継について意思を残す制度ですが、その内容が実行に移されるのは、多くの場合、葬儀が終わった後です。「葬儀をどこに頼むか」という“いちばん最初に動くべきこと”には、遺言は間に合いません。
一方、死後事務委任契約なら、本人の死亡直後から受任者が動けます。
そして——ここがポイントですが——死後事務の目録のなかで、「葬儀の施行を担う葬儀社」をあらかじめ指定しておくことができます。
キモは「将来の施行を、生前に確定させる」仕組み
葬儀社の立場で考えてみてください。
死後事務委任契約の中で葬儀施行先を指定しておくことで、本人の意思を実現しやすい状態を生前から構築できます。
士業が生前の顧客接点を握り、死後事務委任契約を通じて施行先の葬儀社を“事前に指定”する。
これはつまり、士業が「将来の葬儀の見込み客を、確定した形で葬儀社に届けられる」ということを意味します。手数料を払って送客してもらう側から、施行の確定を届ける側へ。立場が逆転するわけです。
“前受け”の壁と、信託による保全
ただし、ここで一つ、避けて通れない論点があります。「葬儀費用をどう預かるか」という問題です。
将来の葬儀施行を約束するなら、その費用をどこかで確保しておく必要があります。
冠婚葬祭の互助会は、割賦販売法上の「前払式特定取引業」として許可制になっており、前受金の保全義務が課されています。いわば、前受けの仕組みが法律で整えられているわけです。
一方で、互助会を持たない葬儀社が、生前に葬儀費用を直接預かろうとすると、こうした保全の仕組みがありません。
過去には、身元保証を手がける団体が破綻し、利用者が預けたお金が戻らなくなった事例もありました。「生前にお金を預ける」ことには、消費者保護上のリスクがつきまとうのです。
そこで有効になるのが、信託の活用です。
預かった葬儀費用(預託金)を、管理型信託会社による信託で保全する。倒産隔離と分別管理によって、万一の場合でも資金が守られる形にしておき、本人が亡くなった時に、死後事務委任の受任者(士業)が施行先の葬儀社へ支払う——という設計です。
利用者にとっては、「信託で守られているから安心」という、明確な拠り所ができます。
これには追い風もあります。2024年6月、政府(内閣官房・関係省庁)は「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定し、預託金は事業者の運営資金と明確に区分して管理することが望ましいとしました。信託の活用は、この流れにも沿った考え方です。
なお、ここでお伝えしているのは、あくまで考え方の枠組みです。
実際の契約設計や信託スキームの組成は、各事務所の専門家としての判断と、信託会社等との連携が前提になります。その点は念のため申し添えておきます。
まとめ:葬儀社連携は「相続手続きの川下」から「生前対策の川上」へ
葬儀社連携というと、これまでは「葬儀後に発生した相続手続きを送客してもらう」という、商流の“川下”での連携が中心でした。
しかし、その入口は、いまやコモディティ化しています。
価格と規模で大手に競り負け、先約の壁に阻まれる——同じ土俵で戦う限り、この構図はなかなか変わりません。
これからの葬儀社連携で問われるのは、「誰が、生前の顧客接点を握るか」です。
生前対策・おひとりさま・死後事務委任という“川上”に軸足を移し、葬儀社に「与える側」として向き合う。施行の確定を届けられる存在になることで、手数料に頼らない、対等で持続的な関係が築けるはずです。
葬儀社へのアプローチに行き詰まりを感じている先生こそ、一度、切り口を変えてみてはいかがでしょうか。
