
相続分野の売上は増加してきた。相続業務に関わるスタッフも増えた。それなのに、ある時期からぴたりと成長が止まる。
相続分野に取り組む事務所の経営者から、こうした「伸び悩み」のご相談をよくいただきます。
多くの事務所経営者は、これを単純な集客の課題だったり、自分や組織の努力不足だと受け止めます。
しかし、複数の事務所を見ていくと、伸び悩みは決まって特定の売上ラインで起きていることが分かります。
それは才能の問題ではなく、フェーズに固有の「壁」なのです。売上や事務所スタッフの段階によって迎える「壁」の種類、解決方法は全く異なります。本記事では、相続特化事務所が直面する3つの壁と、それぞれの段階で何が起きているのかを整理します。
伸び悩みは「努力不足」ではなく「フェーズの壁」
成長が止まるとき、経営者はたいていこれまでの延長線上で、「努力が足りない、もっと頑張ろう」と考えます。
ところが、フェーズの壁は頑張りの量では越えられません。
成長の「壁(ボトルネック)」の正体は、いまのやり方が次の規模に合わなくなる「構造の限界」だからです。
これは、私たちSamikaが相続分野に注力する士業事務所を支援・分析する中で見えてきた、成長フェーズの一つの目安です。
もちろん事務所の人員体制や商圏、取り扱い業務によって前後しますが、4,000万円前後では「業態転換」、8,000万円前後では「組織生産性」が大きなテーマになりやすい傾向があります。
同じ努力を続けても壁を越えられないのは、努力が足りないからではなく、変えるべき構造が変わったからです。だからこそ、いま自分がどの壁の手前にいるのかを知ることが、最初の一歩になります。

STARTUP(〜4,000万):
「登記手続代行」から「相続総合窓口」への業態転換
最初の壁は、相続売上3,000~4,000万円の手前に現れます。
この段階の多くの事務所は、相続登記、遺産整理を中心とした「手続代行支援」として動いています。
依頼が来れば対応する、という受け身の姿勢でも、一定の売上までは伸びていきます。
しかし、ここで頭打ちになる事務所は、相続を「登記、手続の延長」として捉えたままです。
この段階の「壁」を越える事務所は、自らを「相続の総合窓口」として再定義します。
遺産分割、不動産売却、負動産処分、生前対策、各種手続きまでをワンストップで引き受ける業態へと転換することで、一件あたりの関わりが深まり、単価も件数も伸びていきます。
つまり、単に相続登記の件数を増やすのではなく、相続登記を入口に、相談者が抱える複数の課題を整理し、必要な支援へつなげられるかが重要になります。
ここで「入口業務」から「課題解決型の相続支援」へ転換できるかどうかが、最初の壁を越える分岐点です。
この段階の目安は、平均受任単価20〜25万円、面談誘導率60〜70%、年間受任件数180〜200件です。
GROWTH(4,000〜8,000万):
代表の「脱・実務」と高単価受任体制
次の壁は、代表者自身がボトルネックになることで生まれます。
・代表しか面談できない
・代表しか高単価提案できない
・代表しか判断できない
・代表が処理まで抱えている
売上4,000万円を超えるあたりから、代表がプレイヤーとして案件を回す方式では限界が来ます。
代表の時間が、そのまま事務所の上限になってしまうからです。
ここでいう「脱・実務」とは、代表が現場を完全に離れるという意味ではありません。
代表しか初回面談ができない、代表しか高単価提案ができない、代表しか案件判断ができない、という状態を少しずつ解消していくことです。
具体的には、遺産承継業務の受任率30〜40%、平均受任単価28〜35万円、年間受任件数250〜280件といった水準を一つの目安にしながら、代表個人ではなく組織として高単価案件を受任できる体制を整えていく段階です。
事務所代表が業務処理や相続面談などの現場に立ち続ける限り、事務所は代表の処理能力以上には大きくなりません。
SCALE(8,000万〜):
組織力で生産性を最大化
3つ目の壁は、組織の生産性に関わります。人を増やせば売上も増える、という単純な比例関係は、この規模では成り立ちません。
増えた人数を活かしきれず、一人あたりの生産性が下がっていく事務所が少なくないのです。
この段階で問われるのは、仕組みと分業による業務生産性の最大化です。
少人数の段階では、1人のスタッフが戸籍収集から顧客対応、書類作成、手続き完了までを一貫して担当する「一人完結型」でも業務は回ります。むしろ、その方法しか選択肢がない。
しかし、案件数が増え、対応スタッフも増えてくると、このやり方では担当者ごとの処理能力に依存し、生産性にばらつきが出やすくなります。さらにその担当スタッフしか業務を把握していない状態だと、それが様々な問題を引き起こします。
そこで必要になるのが、戸籍収集・相続人調査、財産資料の整理、遺産分割協議書などの書類作成、顧客対応・進捗管理といった工程ごとに役割を分ける「工程分業型」の体制です。
各工程を次の担当者へ正確に引き継ぐ仕組みを整えることで、案件数が増えても品質を落とさずに処理できる体制へ移行していきます。

壁ごとに「何から手をつけるか」は決まっている
ここまで見てきたように、3つの壁はそれぞれ性質が異なります。
最初の壁は業態転換、二つ目は代表の脱・実務、三つ目は組織の生産性。
裏を返せば、自分がどの壁の手前にいるかが分かれば、何から手をつけるべきかも自ずと決まります。
伸び悩みのご相談で最も多い失敗は、いま向き合うべき壁とは別の壁の対策に時間を使ってしまうことです。
たとえば組織化が必要な段階で集客にばかり投資しても、目の前の壁は越えられません。
なお、ここでは司法書士事務所の成長フェーズを中心に整理していますが、この考え方は税理士・弁護士・行政書士など、相続・生前対策・財産管理分野に取り組む事務所にも応用できます。
入口となる業務は異なっても、単一業務から総合支援へ広げること、代表依存から組織対応へ移行すること、生産性を仕組みで高めることは、共通する成長テーマです。
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本記事では3つの壁の全体像をお伝えしましたが、各フェーズで「具体的に何から着手すべきか」は、優先順位をつけて整理する必要があります。
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