入院や介護施設への入居時に必要な身元保証人。亡くなった後に残された手続き——葬儀・家財処分・行政への届出——を代わりに担ってくれる存在。これまで「家族がやること」とされてきたことを、他の誰かに頼まざるを得ない方が急増しています。
ニーズはあります。需要もあります。
しかし、現場を見ると、こんな光景が広がっています。
身元保証は保証会社が引き受け、入院手続きは病院のソーシャルワーカーが関わり、介護の調整はケアマネが担い、遺言書は司法書士が作成し、相続手続きは税理士が対応し、葬儀は葬儀社が手配する……。
これだけ多くのプレイヤーが関わっているにもかかわらず、「この方の全体を見ている人」が誰もいない。
読者のみなさんも、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。

①現状:バラバラに存在する身元保証・死後事務の担い手
現在、身元保証・死後事務に関わるプレイヤーは大きく四つに分類できます。
1. 身元保証会社
民間企業やNPOが「保証人の代わり」として契約を結び、入院・施設入居をサポートします。医療機関や介護施設との接点を持つため、高齢者本人と最初に関わる機会が多い存在です。
2. 死後事務受任事業者
葬儀手配・家財整理・行政手続き・デジタルデータの整理など、死後に発生する事務を代行する事業者です。法律資格を持たない民間事業者が多く、士業とは別の市場で動いています。
3. 士業(司法書士・税理士・弁護士・行政書士など)
遺言書の作成、後見制度の申立て、相続手続きの代理など、法律・税務の専門家として関わります。ただし、関与するタイミングは「手続きが発生したとき」に限られることが多く、継続的な関係になりにくいのが実態です。
4. 介護・医療・不動産関係者
ケアマネジャー、病院のソーシャルワーカー、不動産管理会社なども、それぞれの文脈で高齢者と接点を持っています。特にケアマネは、日常的な生活課題の相談相手として深い信頼関係を築いていることも少なくありません。
これらのプレイヤーは、それぞれの専門性をもって動いています。しかし、その動きは横断的につながっているわけではなく、基本的にはバラバラに存在しています。
②なぜ「分業化」が起きているのか
そもそも、なぜこれだけ分業化が進んでいるのでしょうか。背景には、構造的な理由があります。
制度の分断
身元保証・死後事務に関わる制度は、後見制度・相続・契約法など、複数の法体系にまたがっています。それぞれ所管する省庁も異なれば、関与できる士業の種別も違います。ひとつの事務所が「制度横断的に対応する」のは、そもそも制度設計上、容易ではありません。
リスクの高さ
身元保証人・死後事務受任者は、財産や個人情報に直接関わります。横領や不正行為のリスクが伴うため、単独の事業者がすべてを抱え込む体制はリスク管理の観点から問題があります。分業・チェック体制を設けることが、むしろ健全な運営の条件とも言えます。
プレイヤーの多様性
士業・民間事業者・NPO・医療福祉関係者など、関与するプレイヤーの性質が大きく異なります。それぞれの規制・倫理規定・ビジネスモデルが異なるため、自然と棲み分けが生まれています。
体制構築の難易度——最も重要な理由
最大の理由がこれです。相続・終活の領域は、カバーすべき範囲が広すぎるのです。
遺言書作成・後見申立・財産管理・不動産処分・葬儀手配・家財整理・デジタル資産・行政届出・税申告……。これらすべてを、ひとつの事務所が内製化することは、現実的ではありません。
「ワンストップでなんでもやります」という体制を無理に構築しようとすると、品質管理が追いつかず、専門性の低い領域でトラブルを起こすリスクが出てきます。
分業化が進んでいるのは、"誰かが不誠実だから"ではなく、構造的にそうなるべき合理的な理由があるからです。
③よくある誤解——「ワンストップ化」は本質ではない
この状況を見て、多くの士業事務所は「ワンストップサービスを実現することが競争優位につながる」と考えます。たしかに、一定の幅広さは必要です。しかし、
重要なのは、すべてを自社でやることではありません。相続・終活全体の主導権を、誰が握るかです。
すべての業務を内製化しなくとも、「この方のことは、あの事務所に聞けばいい」という信頼と接点さえ確立できれば、主導権は取れます。逆に、いくら業務範囲を広げても、顧客との最初の接点を他社に取られれば、単なる「紹介先」に留まります。

④本当の競争構造——「サービス競争」ではなく「窓口争い」
この領域における本当の競争は、誰が顧客との最初の接点=「窓口」を握るかをめぐる争いです。
サービスの質や価格は、もちろん重要です。しかし、窓口を持っているかどうかで、事業としての位置づけがまるで変わります。
窓口を取るとどうなるか
- 顧客の信頼を握ることができる
- 他の専門家・事業者を「紹介する立場」に回れる
- 継続的な関係が生まれ、LTV(顧客生涯価値)が高まる
- 次の相続・次世代の相談に繋がっていく
窓口を取らないとどうなるか
- 他者から「紹介される側」=下請けになる
- スポットの手続き業務のみを担当することになる
- 価格競争に晒され、収益が安定しない
- 次の案件に繋がらず、関係が一度きりで終わる
この二つの間には、構造的な差があります。そして、この差は一度固まると、なかなか逆転できません。「紹介される側」に慣れた事務所は、顧客接点のつくり方を知らないまま、下請け構造に組み込まれていきます。
⑤士業の現状|構造的に「主導権」を持ちにくい
多くの士業事務所は現状、この「窓口」を取れていません。
- 顧客との関わりは「手続きが必要になったとき」に限られている
- 案件は、他の士業・銀行・保険会社・ケアマネからの紹介で来ている
- 終活相談や事前準備の段階では、接点を持てていない
これは能力の問題ではありません。「手続きを依頼されたら動く」というスタイルでは、構造的に顧客接点の主導権を取れないのです。
顧客は「何かが起きてから」士業に相談するのではなく、「何かが起きる前に」どこかに相談しています。その「起きる前」の接点を誰が持っているかが、決定的に重要です。

⑥では、どうするか——窓口を取るための具体的な取り組み
① 初回相談の窓口を確保する
まず、終活・おひとり様対策に関する「初回相談の入口」を、自事務所で持てるかどうかが出発点です。
- 終活相談会・おひとり様向けセミナーの定期開催
- 「相続・終活の無料相談」を前面に打ち出したウェブ集客
- LINEや問い合わせフォームでの継続的な接点設計
「手続きを依頼される前」に、まず相談の場を持てるかどうかが鍵です。
② パッケージとして提案する
個別の手続きではなく、一連のニーズに対してまとめて応えるパッケージ提案が、顧客からの信頼を高めます。
- 身元保証サポート+死後事務委任契約+遺言書作成のセット提案
- 「老後を安心して迎えるための準備プラン」として入口を広げる
これにより、「手続き屋」ではなく「伴走者」としてのポジションを確立できます。
③ ネットワークを構築し、「束ねる」役割を取る
すべてを自社でやる必要はありません。重要なのは、「紹介する側」に回ることです。
- 身元保証会社との連携関係の構築
- 地域の介護事業者・葬儀社・不動産管理会社との紹介ネットワーク
- 他士業との業際を意識した協力関係
これらを自事務所が「束ねる立場」に立てれば、単独ではカバーできない範囲のニーズにも対応でき、顧客からの信頼は格段に高まります。
④ 継続接点の設計——関係を切らさない仕組みをつくる
一度相談を受けた顧客との関係を、いかに継続させるかも重要です。
- 定期的なフォローアップ連絡(年1回の「現状確認」など)
- メールマガジンや郵送ニュースレターによる情報提供
- LINEを活用した低コスト・高頻度の接点維持
「何かあればいつでも相談できる」という関係をつくることが、長期的な窓口の維持につながります。
⑦ポジションの分岐——今が分かれ目です
この先、身元保証・死後事務の領域は、さらに市場として成熟していきます。分業化はいっそう進み、役割の棲み分けは明確になっていきます。
そのとき、士業事務所は二つのポジションに分かれます。
【窓口を取る事務所】
顧客との最初の接点を持ち、全体を束ねる役割を担う。継続的な信頼関係を築き、複数の案件・紹介・連携が生まれる。下請けにはならない。
【下請けになる事務所】
紹介を待ち、手続きだけを担当する。顧客との直接接点は薄く、次の案件にはつながりにくい。価格競争の圧力を受け続ける。
今のうちに顧客接点を取りにいくかどうか。その選択が、数年後のポジションを決めることになります。

分業化が進むからこそ、主導権の獲得が重要になる
身元保証・死後事務の分業化は、今後も進みます。これは避けられない流れであり、むしろ適切な役割分担として健全でもあります。
しかしだからこそ、「誰が顧客との窓口を持つか」が、これまで以上に重要になります。
すべてを自社で完結させる必要はありません。必要なのは、顧客が「まずここに相談しよう」と思う事務所になることです。
終活相談の入口を持ち、ネットワークを束ね、継続的な関係を設計する。その積み重ねが、下請けではなく「主導権を持つ事務所」としてのポジションをつくります。
「このままでいい」という選択が、最もリスクの高い選択かもしれません。

