
営業専属の担当者を置いた。
訪問件数も増えた。
それでも、紹介案件は思ったほど増えていない。
相続・生前対策に力を入れている士業事務所から、こうしたご相談をいただくことがあります。
営業専任のスタッフを採用したケースもあれば、事務スタッフが兼務しているケース、幹部や所長ご自身が動いているケースもあります。
このとき最初に疑われるのは、たいてい担当されている営業担当者の力量です。
もちろん、営業に向き不向きはありますし、経験の差もあります。
ただ、そこだけに原因を求めてしまうと、改善すべきポイントを見誤ることが多いように思います。
似た経歴の方が動いても、事務所によって結果は変わります。
その差がどこから生まれているのかを見ていくと、ひとつの共通点にたどり着きます。
紹介営業がうまくいく事務所と、いかない事務所の違いは、優秀な営業担当者がいるかどうかだけではありません。
大きな違いは、営業を「個人戦」にしているか、「事務所全体の仕事」にしているかです。

① 訪問先の決定
営業担当者が自らリストを作り、自ら判断して回っている。
一見すると主体的で良い状態に見えます。
しかし、その訪問先が事務所の戦略と噛み合っているかを、誰も検証していないことがあります。
相続分野の事務所であれば、不動産会社、葬儀社、介護事業者、金融機関、保険代理店と、候補になる業種は幅広くあります。
どの業種の、どの規模の、どの立場の方に会いたいのか。
ここが事務所の意思として定まっていないと、訪問先は担当者が会いやすい先に寄っていきます。
悪意の話ではなく、判断材料を渡していないので当然そうなる、ということです。
② 活動の把握
訪問先はスケジュールを見れば分かります。
しかし「どんな提案をして、先方がどう反応したか」は、どこにも残っていないことが多いのではないでしょうか。
ここが見えないと、事務所側は何も判断できません。
支援すべき場面があったのかどうかも、後から知りようがなくなります。
③ 撤退の判断
最も見落とされやすい観点です。
数年アプローチを続けても案件が動かない先は、どの事務所にもあります。
やめられない理由は、担当者の粘り強さではありません。
やめる判断を下せる人がいないことです。
担当されている方は「自分の努力不足」と受け取りますから、自ら撤退を提案しにくい立場にあります。
この判断は、事務所側が引き取るべきものだと思います。
④ 商談の引き継ぎ
士業事務所に特有の論点です。
営業担当者が無資格スタッフの場合には、対応できる範囲に線があります。
個別案件の専門的な判断、受任の可否、法的判断を伴う説明、そして事務所としての条件の決定。
これらは有資格者や所長が引き取るべきものです。
問題は、その線がどこにあり、いつ誰に渡すのかが決まっていないことです。
決まっていないと、相手から具体的な相談が出た瞬間に持ち帰りが発生し、そこで温度が下がります。
逆に、有資格者が同席すべき場面をあらかじめ定めておけば、同じ商談でも進み方が変わってきます。
なお、有資格者ご自身が営業を担っている場合でも、この論点は消えません。
その場合は、条件決定や受任判断を所長が引き取るのか、担当者に委ねるのかを明確にしておく必要があります。
⑤ 定例レビューの仕組み
ここでいうレビューは、ただ集まって話すことではありません。
何を提案したか。
相手がどう反応したか。
次に何をするか。
続けるか、優先度を下げるか。
有資格者の同行が必要な場面はあるか。
どの段階で商談を引き継ぐか。
これらを組織として判断する場があるかどうか、という観点です。
見えていない部分がどれだけあるか
モデルケースとして考えてみます。
営業担当者が月に20件訪問しているとすると、年間で約240件の接触です。
このうち、提案内容と先方の反応まで事務所に共有されているのが3割の72件だとすれば、残る168件について事務所は何の判断もできません。
仮にその2割にあたる34件が、有資格者の同行や資料の追加があれば前に進んだ先だったとしても、その事実自体が誰にも見えていないことになります。
これは実在事務所の実績ではなく、想定に基づく試算です。
ただ、比率そのものは実感と大きく離れていないのではないでしょうか。
なぜ士業事務所で、営業が個人戦になりやすいのか
理由は3つあると考えています。
ひとつは、有資格者が実務で手一杯であること。
目の前の案件処理には期限がありますから、営業の話は後回しになります。
もうひとつは、営業のマネジメント経験がないこと。
何を聞けばよいのか、何を渡せばよいのかが分からない、という状態です。
そして、「営業は行けば取れるもの」という前提。
訪問件数さえこなせば成果が出る、という見方で捉えてしまいます。
事務所側に悪意はありません。
むしろ「営業の経験がある人を採ったのだから、口を出さない方がいい」という配慮であることが多いように思います。
しかしその配慮が、結果として個人戦を固定してしまう場合があります。
起点として着手しやすいのが、定例レビュー
5つの観点は、それぞれ独立した課題です。
ただ、①から④を一度に整えるのは現実的ではありません。
最も着手しやすく、他の4つに効いてくるのが定例レビューです。
訪問先の妥当性も、活動の中身も、撤退の判断も、引き継ぎのタイミングも、話す場がなければ検討の俎上に載りません。
逆に場さえあれば、そこで少しずつ整えていくことができます。
頻度は週1回30分でも、隔週でも構わないと思います。
重要なのは参加者を固定し、都合がつく人だけの参加にしないことです。
優先順位が下がった瞬間に、この場は形骸化します。
レビューは「武器を渡す場」
ただし、会議を開くこと自体に価値があるわけではありません。
進捗確認の場になった瞬間に、この場は担当者にとって報告の負担でしかなくなります。
営業担当者に武器を渡す場だと捉えたほうが、機能しやすいと思います。

特に決裁ラインは明文化しておくことをおすすめします。
その場で判断できない事項が降りてくると、商談は必ずそこで止まります。
訪問件数ではなく、営業の進み方を見る
もうひとつ、個人戦から抜け出すために有効なのが、見る指標を変えることです。
多くの事務所では、今月何件訪問したか、提携契約を何社締結したか、勉強会を何回開催したか、といった活動量で営業を管理しています。
これらは分かりやすい反面、実態を映しにくい指標でもあります。
訪問件数が増えても、進んでいない相手ばかりということは起こりえます。
紹介営業で見るべきなのは、提携先ごとの状態の進み方です。
接点ができた。
提案ができた。
最初の1件を任せてもらえた。
2件目が来た。
継続的に紹介が来るようになった。
この段階のうち、特に重要なのが次の2つだと思います。
最初の1件を任せてもらえた提携先が何社あるか。
そのうち2件目につながった提携先が何社あるか。
この2つを追うと、どこで止まっているかが見えてきます。
1件目が取れていないのであれば、入口の設計に手を入れる必要があります。
1件目は取れているのに2件目が来ないのであれば、問題は営業ではなく、初回対応の進め方にあります。
これは営業担当者一人では変えられませんから、事務所として引き取るべき課題です。
指標を細かくつくり込む必要はありません。
ただ、この2つを定例レビューの場で確認するだけでも、話す内容は活動報告から改善の議論へ変わっていくと思います。
管理表より先に、話す場をつくる
多くの事務所は「営業管理表を作れば解決する」と考えます。
しかし実際は逆ではないかと思います。
会議で使われない記録は続きません。
項目を増やすほど記入率は下がり、詳細な管理表が空欄のまま放置されます。
レビューの場が先にあり、記録はその材料として初めて意味を持ちます。
続けてもらうための条件は3つです。
必須項目を最小限にすること。
入力した本人に情報が返る設計にすること。
そして、定例の場で必ず使うことです。
任せることと、放置することは違う
紹介案件が思うように増えていないとき、問われるのは担当されている方の力量だけではないと思います。
事務所がその方に何を渡してきたか、という観点があります。
戦略を渡していたか。
判断を分担していたか。
止まった商談を引き取っていたか。
最初の1件が来たとき、事務所全体でその1件を守れていたか。
提携先に最初の1件を任せてもらうまでの設計については、別の記事で詳しく整理しています。
その1件を2件目、そして継続的な紹介につなげていくのは、ここで書いてきた事務所側の仕組みの役割です。
営業体制の組み立てや、定例レビューの設計、追うべき営業指標の整理について検討されていることがございましたら、ご相談いただければと思います。
