
「相続業務は機密性が高いから、生成AIを活用したいけど、情報漏洩が心配だ」。
そう考えて、生成AIの活用を様子見している士業事務所は少なくありません。
司法書士、行政書士、税理士。扱う情報こそ違えど、権利証、戸籍、資産情報、申告情報といった、外に漏れれば取り返しのつかない情報を日常的に預かっています。
だからこそ慎重になる。これは士業として、むしろ健全な感覚だと思います。
ただ、様子見をしているその間にも、同じ不安を乗り越えて、すでに生成AIを使いこなしている事務所は現れています。
そして、活用できている事務所と、止まったままの事務所との間で、生産性と収益性の差が、静かに、しかし確実に広がりつつあります。
問題は、その不安が「越えられない壁」なのか、それとも「選び方で解消できるボトルネック」なのか。ここを見極められているかどうかです。
生成AI活用が止まる、2つのボトルネック
相続を扱う士業事務所で生成AIの活用が進まないとき、止まっている理由は、大きく2つに分けられます。
ひとつは、情報漏洩への不安。「入れた情報が、どこかで漏れるのではないか」という懸念で、そもそも一歩目を踏み出せない。
もうひとつは、導入したパッケージが自事務所に合わず、そこで生成AI活用そのものを諦めてしまうこと。
この2つは、まったく違う問題に見えて、実はどちらも“選び方・考え方”で外せるボトルネックだという共通点があります。
順番に見ていきます。
ボトルネック①:情報漏洩の不安は「入口の選び方」で解ける
「AIに入れた情報が、学習に使われてしまうのではないか」。
この不安は、決して的外れではありません。むしろ正しい問題意識です。
ただ、ここで見落とされがちなのは、入れた情報がどう扱われるかは、どの入口から使うかによって根本から変わる、という事実です。
たとえばClaude(Anthropic社の生成AI)の場合、大きく分けて個人向けのプランと、事業者向けのプランがあります。
2026年8月時点の公開情報では、この両者で、入力した情報の扱いの前提が異なります。
個人向けのプランでは、設定によっては会話の内容がモデルの改善(学習)に使われることがあります。一方、事業者向けのプラン(法人向けのプランやAPIなど)では、入力・出力が既定でモデルの学習に使われません。
これは「たまたまそうなっている」のではなく、事業者が業務で使うことを前提に、そう設計されているということです。
さらに踏み込んだ選択肢もあります。
事業者向けの一部のプランでは、法令遵守や不正利用対策に必要な場合を除き、入力・出力そのものをそもそも保存しないという取り決め(ゼロデータ保持)を結ぶこともできます。
加えて、法人向けのプランには、社内の認証基盤を使ったログイン管理、誰が何にアクセスできるかの権限設定、操作の監査ログ、データの保持期間の設定といった、統制のための仕組みが用意されています。
つまり、リスクを分けているのは「生成AIそのものの危険性」ではなく、「どの入口から、どの条件で使うか」という選択です。
この選択を正しく重ねれば、情報を外に不用意に出さず、必要な範囲で完結させる形での生成AI活用は、実際に構成できます。
「危険だから使わない」ではなく、「安全に使える条件を選ぶ」。ここが最初の分岐点です。
※ プランごとのデータの扱いや契約条件は変わり得るため、実際の導入検討時には、その時点の公式情報(Anthropic社のトラストセンター等)で必ずご確認ください。

ボトルネック②:「パッケージが合わない」と「AIが使えない」は別の話
もうひとつの、実はとても多い止まり方についてです。
相続業務向けには、すでにさまざまな既製のAIパッケージが登場しています。戸籍を読み取るタイプのツールなどが代表例です。
こうした製品を検討し、試用してみたものの、自事務所には合わず、導入を見送る。ここまでは、よくある話です。
実際に弊社の支援先でも、こうした相続業務向けのAIパッケージを、担当者と一緒に検討し、試用期間で実際に使ってみた事務所がありました。
そこで挙がったのは、戸籍読み取りの精度が実務で求める水準に届かない、そして既存の業務進行フローが大きく変わってしまうことへの負担感、といった声でした。
興味深いのは、こうした反対が、経営者よりむしろ現場のスタッフから上がりやすいという点です。日々の業務を回している人ほど、フローが変わることの重さを実感しているからだと思います。
結果として、この事務所は導入を見送りました。この判断自体は、まっとうなものです。
問題は、その先にあります。
特定の製品が合わなかったことを理由に、「生成AI活用そのもの」を止めてしまう。このケースが、実に多いのです。
ですが、ひとつのパッケージが自事務所に合わないことと、生成AIを活用できないことは、まったく別の話です。
既製品は、あくまで「誰かが決めた形」に自事務所を合わせにいく選択肢です。それが合えば理想的ですが、合わなかったときに残された道は「諦める」だけではありません。
既製品が合わないなら、自事務所の業務フローに合わせて組む、という選択肢があります。
たとえば、初回相談の音声を、事務所の既存のやり方を大きく変えないまま、生成AIで提案資料の下準備に変える。こうした“自事務所に合わせた使い方”であれば、現場のフローを壊さずに導入できます。
大切なのは、既製品を試すことをゴールにせず、「合わなければ、別の形がある」という前提で検討を始めることです。
支援先での、実際の検討の順番
弊社が支援した、とある相続特化型の士業法人様でも、最初の関心事は、生成AIが「便利かどうか」ではありませんでした。
真っ先に問われたのは、「情報が漏れないか」、そして「今のやり方が壊れないか」の2点です。
この順番で慎重に検討するのは、機密情報を預かる士業として、当然の姿勢だと思います。
大事なのは、その慎重さを“やらない理由”で終わらせず、“安全に、そして自事務所に合う形で使うための条件”に変換することです。
「漏れないか」への答えは、入口(プラン)の選び方にあります。
「壊れないか」への答えは、既製品に縛られず、自事務所の業務に合わせて組むという発想にあります。
どちらのボトルネックも、正体さえ分かれば、越えられるものです。
様子見をしている間も、差は広がっている
セキュリティや、既存業務との相性を理由に様子見をするのは、一見とても合理的です。
けれど、その間にも、すでにこの2つのボトルネックを外した事務所との間で、生産性と収益性の差は開いていきます。
いま生成AIを使いこなしている事務所も、最初から不安がなかったわけではありません。同じ不安を、選び方と考え方で乗り越えたにすぎません。
「危険だから」「合わなかったから」使わない、ではなく、「安全に、自事務所に合う形を選ぶ」。
この発想の転換が、これからの事務所経営における、静かな、しかし大きな分岐点になっていくと考えています。

先生方の事務所では、いかがでしょうか
機密性の高さも、既製品が合わなかった経験も、生成AI活用を諦める理由にはなりません。
むしろ、「どう安全に使うか」「どう自事務所に合わせるか」を設計するための、出発点です。
自事務所にとって、情報を外に出さず、かつ現場のやり方を壊さない形をどう組み立てられるか。
具体的に検討してみたい先生方は、ぜひ一度ご相談ください。
