情報漏洩が心配で、生成AI活用が進まない─そのボトルネックを解消する、リスク管理の考え方

2026.08.07 14:51

「相続業務は機密性が高いから、生成AIを活用したいけど、情報漏洩が心配だ」。

そう考えて、生成AIの活用を様子見している士業事務所は少なくありません。
司法書士、行政書士、税理士。扱う情報こそ違えど、権利証、戸籍、資産情報、申告情報といった、外に漏れれば取り返しのつかない情報を日常的に預かっています。

だからこそ慎重になる。これは士業として、むしろ健全な感覚だと思います。

ただ、様子見をしているその間にも、同じ不安を乗り越えて、すでに生成AIを使いこなしている事務所は現れています。

そして、活用できている事務所と、止まったままの事務所との間で、生産性と収益性の差が、静かに、しかし確実に広がりつつあります。


問題は、その不安が「越えられない壁」なのか、それとも「選び方で解消できるボトルネック」なのか。ここを見極められているかどうかです。

 

 

生成AI活用が止まる、2つのボトルネック

相続を扱う士業事務所で生成AIの活用が進まないとき、止まっている理由は、大きく2つに分けられます。

ひとつは、情報漏洩への不安。「入れた情報が、どこかで漏れるのではないか」という懸念で、そもそも一歩目を踏み出せない。

もうひとつは、導入したパッケージが自事務所に合わず、そこで生成AI活用そのものを諦めてしまうこと。


この2つは、まったく違う問題に見えて、実はどちらも“選び方・考え方”で外せるボトルネックだという共通点があります。

順番に見ていきます。

 

 

ボトルネック①:情報漏洩の不安は「入口の選び方」で解ける

「AIに入れた情報が、学習に使われてしまうのではないか」。
この不安は、決して的外れではありません。むしろ正しい問題意識です。

ただ、ここで見落とされがちなのは、入れた情報がどう扱われるかは、どの入口から使うかによって根本から変わる、という事実です。

たとえばClaude(Anthropic社の生成AI)の場合、大きく分けて個人向けのプランと、事業者向けのプランがあります。
2026年8月時点の公開情報では、この両者で、入力した情報の扱いの前提が異なります。


個人向けのプランでは、設定によっては会話の内容がモデルの改善(学習)に使われることがあります。一方、事業者向けのプラン(法人向けのプランやAPIなど)では、入力・出力が既定でモデルの学習に使われません。

これは「たまたまそうなっている」のではなく、事業者が業務で使うことを前提に、そう設計されているということです。


さらに踏み込んだ選択肢もあります。

事業者向けの一部のプランでは、法令遵守や不正利用対策に必要な場合を除き、入力・出力そのものをそもそも保存しないという取り決め(ゼロデータ保持)を結ぶこともできます。

加えて、法人向けのプランには、社内の認証基盤を使ったログイン管理、誰が何にアクセスできるかの権限設定、操作の監査ログ、データの保持期間の設定といった、統制のための仕組みが用意されています。


つまり、リスクを分けているのは「生成AIそのものの危険性」ではなく、「どの入口から、どの条件で使うか」という選択です。

この選択を正しく重ねれば、情報を外に不用意に出さず、必要な範囲で完結させる形での生成AI活用は、実際に構成できます。

「危険だから使わない」ではなく、「安全に使える条件を選ぶ」。ここが最初の分岐点です。

※ プランごとのデータの扱いや契約条件は変わり得るため、実際の導入検討時には、その時点の公式情報(Anthropic社のトラストセンター等)で必ずご確認ください。

 

 

ボトルネック②:「パッケージが合わない」と「AIが使えない」は別の話

もうひとつの、実はとても多い止まり方についてです。
相続業務向けには、すでにさまざまな既製のAIパッケージが登場しています。戸籍を読み取るタイプのツールなどが代表例です。

こうした製品を検討し、試用してみたものの、自事務所には合わず、導入を見送る。ここまでは、よくある話です。
実際に弊社の支援先でも、こうした相続業務向けのAIパッケージを、担当者と一緒に検討し、試用期間で実際に使ってみた事務所がありました。


そこで挙がったのは、戸籍読み取りの精度が実務で求める水準に届かない、そして既存の業務進行フローが大きく変わってしまうことへの負担感、といった声でした。

興味深いのは、こうした反対が、経営者よりむしろ現場のスタッフから上がりやすいという点です。日々の業務を回している人ほど、フローが変わることの重さを実感しているからだと思います。

結果として、この事務所は導入を見送りました。この判断自体は、まっとうなものです。

問題は、その先にあります。

特定の製品が合わなかったことを理由に、「生成AI活用そのもの」を止めてしまう。このケースが、実に多いのです。


ですが、ひとつのパッケージが自事務所に合わないことと、生成AIを活用できないことは、まったく別の話です。

既製品は、あくまで「誰かが決めた形」に自事務所を合わせにいく選択肢です。それが合えば理想的ですが、合わなかったときに残された道は「諦める」だけではありません。

既製品が合わないなら、自事務所の業務フローに合わせて組む、という選択肢があります。


たとえば、初回相談の音声を、事務所の既存のやり方を大きく変えないまま、生成AIで提案資料の下準備に変える。こうした“自事務所に合わせた使い方”であれば、現場のフローを壊さずに導入できます。

大切なのは、既製品を試すことをゴールにせず、「合わなければ、別の形がある」という前提で検討を始めることです。

 

 

支援先での、実際の検討の順番

弊社が支援した、とある相続特化型の士業法人様でも、最初の関心事は、生成AIが「便利かどうか」ではありませんでした。
真っ先に問われたのは、「情報が漏れないか」、そして「今のやり方が壊れないか」の2点です。

この順番で慎重に検討するのは、機密情報を預かる士業として、当然の姿勢だと思います。
大事なのは、その慎重さを“やらない理由”で終わらせず、“安全に、そして自事務所に合う形で使うための条件”に変換することです。


「漏れないか」への答えは、入口(プラン)の選び方にあります。
「壊れないか」への答えは、既製品に縛られず、自事務所の業務に合わせて組むという発想にあります。
どちらのボトルネックも、正体さえ分かれば、越えられるものです。

 

 

様子見をしている間も、差は広がっている

セキュリティや、既存業務との相性を理由に様子見をするのは、一見とても合理的です。

けれど、その間にも、すでにこの2つのボトルネックを外した事務所との間で、生産性と収益性の差は開いていきます。
いま生成AIを使いこなしている事務所も、最初から不安がなかったわけではありません。同じ不安を、選び方と考え方で乗り越えたにすぎません。

「危険だから」「合わなかったから」使わない、ではなく、「安全に、自事務所に合う形を選ぶ」。
この発想の転換が、これからの事務所経営における、静かな、しかし大きな分岐点になっていくと考えています。

 

 

先生方の事務所では、いかがでしょうか

機密性の高さも、既製品が合わなかった経験も、生成AI活用を諦める理由にはなりません。

むしろ、「どう安全に使うか」「どう自事務所に合わせるか」を設計するための、出発点です。
自事務所にとって、情報を外に出さず、かつ現場のやり方を壊さない形をどう組み立てられるか。

具体的に検討してみたい先生方は、ぜひ一度ご相談ください。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

【相続・生前対策分野に注力する士業事務所向け】
「相続業務 生成AI活用事例レポート」

収集した戸籍の文字認証(AI-OCR)、遺産分割協議書、財産目録などの自動作成を実現するシステム構築から、相続手続顧客に対する二次相続提案の自動作成まで、ChatGPTやClaudeなどの生成AIを活用した業績アップ・生産性向上に成功した士業事務所の最新事例をまとめています。

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