相続分野の連携先から紹介をもらうために、こちらからも紹介を出す。
これは、士業事務所の連携施策において、広く共有されている考え方だと思います。
ただ、大切なのは紹介件数を交換することではありません。
自事務所だけでは解決できない顧客の課題を、信頼できる専門家につなぐこと。
その積み重ねが、結果として連携先との相互紹介につながっていきます。
多くの先生方が、連携先への訪問や情報交換をすでに実践されています。
ところが、実際に「紹介を出した件数」を数えてみると、思ったほど伸びていない。
訪問を重ね、関係も悪くない。
それでも、顧客を引き合わせた実績だけが積み上がらない。
紹介が来ないため、さらに関係構築に時間を使う。
この循環に入っている事務所は、少なくないと思います。
紹介を出せないのは、ニーズがないからではありません
ここで一度、前提を疑ってみたいと思います。
紹介を出せないのは、そもそも顧客側にニーズがないからでしょうか。
おそらく、そうではありません。
相続手続きや生前対策のご相談では、次のような話が日常的に出てきます。
- 実家が空き家のまま残っている
- 父が亡くなり、母が一人暮らしになった
- 加入している保険の内容がよく分からない
- 保険金請求の手続きが進んでいない
- 葬儀の際に、何をすればよいか分からず苦労した
- 元気なうちに、葬儀や死後の手続きを整理しておきたい
これらは、不動産会社、介護・見守り事業者、保険の専門家、葬儀社などへの紹介につながり得る情報です。
つまり、ニーズは相談の場にすでに出ています。
出ているのに、紹介につながる情報として拾われていない。
そこに原因があるのではないかと思います。
拾えない理由は、担当者の意識ではなく面談の設計にあります
なぜ、顧客のニーズを拾えないのでしょうか。
担当者の意識が低いから、という単純な話ではないと思います。
相続手続きの面談には、明確な目的があります。
相続人の範囲、財産の内容、遺産分割の意向などを確認し、必要な手続きを前に進めることです。
担当者は必要な情報を聞き取り、整理し、次の工程へ渡します。
このとき、顧客から「実家が空き家のままで困っている」という発言があったとしても、相続登記を進めるだけであれば、必須の確認事項ではないかもしれません。
そのため、記憶に残らず、面談記録にも残らないまま流れてしまいます。
悪意や怠慢があるわけではありません。
単に、その情報が面談の主目的の外側にあるためです。
さらに、仮に担当者がニーズに気づいたとしても、次の壁があります。
その顧客を、どの連携先に、どのタイミングで、どのように引き合わせればよいのか。
この基準が決まっていなければ、担当者は動けません。
「もっとアンテナを高く持とう」と号令をかけても、長くは続かないでしょう。
多忙な現場において、個人の意識や経験に依存した運用は、いずれ摩耗します。
紹介を増やすためには、意識ではなく、仕組みで解決する必要があるのではないかと思います。
拾い上げから引き合わせまでを、四段階で設計する
では、どのような仕組みをつくればよいのでしょうか。
ここでは、年間120件程度の相続案件を扱う事務所をモデルケースとして考えます。
1.連携先ごとに「引き合わせたい顧客像」を言語化する
まず、連携先がどのような顧客を支援できるのかを明確にします。
例えば、不動産会社であれば、「相続した不動産が空き家になっている方」「今後の利用予定が決まっていない不動産を所有している方」。
介護・見守り事業者であれば、「配偶者の死亡後に一人暮らしとなり、今後の生活や見守り、介護、住み替えに不安を感じている方」。
といった形です。
可能であれば、連携先ご自身に「どのような方であれば力になれるのか」を一〜二行で書いてもらいます。
ここが曖昧なままでは、担当者も紹介対象を判断できません。
2.顧客像を、面談で自然に聞ける質問へ変換する
次に、整理した顧客像を、実際の面談で確認できる質問に変換します。
ただし、「空き家をお持ちですか」「介護で困っていますか」と唐突に質問すると、面談の流れを壊してしまいます。
顧客像をそのまま質問にするのではなく、通常の面談の流れに自然に埋め込むことが重要だと思います。

面談の目的の内側に質問を組み込むことで、担当者にとっても顧客にとっても、無理のない確認ができます。
3.面談記録から紹介候補を拾い上げる
質問ができても、面談後に情報が埋もれてしまえば、紹介にはつながりません。
そこで、面談記録や文字起こしの内容から、連携ニーズに該当する顧客を抽出する工程を設けます。
例えば、生成AIに面談記録を読み込ませ、次のような項目を一覧化します。
- 想定される顧客の困りごと
- 紹介を検討できる連携先
- 顧客へ追加確認すべき事項
- 紹介を提案する際の注意点
- 提案の優先度
生成AIが担うのは、あくまで紹介候補の抽出です。
AIが自動的に紹介の可否を判断したり、顧客の同意なく連携先へ情報を渡したりするものではありません。
なお、面談記録には多くの個人情報が含まれます。
生成AIを利用する場合は、サービスの契約条件やデータの取り扱いを確認し、事務所内の情報管理ルールを整備することが前提になります。
4.担当者が適否を確認し、顧客の同意を得て引き合わせる
抽出された候補について、最終的には担当者が次の点を確認します。
- 顧客が本当に困っているのか
- 今のタイミングで提案すべきか
- 連携先のサービスが顧客のニーズに合っているか
- 顧客が紹介を希望しているか
- どのような情報を連携先へ共有してよいか
そのうえで、顧客の同意を得て、連携先へ引き合わせます。
生成AIやチェックシートは、担当者の判断を代替するものではありません。
担当者が気づき、判断するための補助線として活用することが重要だと思います。

紹介件数を「関係性」だけの問題にしない
紹介件数は、次のように工程ごとに分解できます。
紹介件数 = 面談件数 × ニーズ該当率 × 提案実施率 × 顧客同意率 × 引き合わせ実行率
例えば、年間120件の面談があり、そのうち40%の顧客に何らかの連携ニーズがあると仮定します。
さらに、対象となる顧客の70%から引き合わせの同意を得られるとすると、潜在的な紹介対象は年間約34件です。
仮に、これまで対象者の30%しか拾えていなかった事務所が、面談質問や面談記録の分析によって80%を拾えるようになれば、年間の引き合わせ件数は約10件から約27件まで増える計算になります。
(いずれもモデルケースとしての想定値であり、特定の事務所の実績ではありません)
もちろん、実際の数字は事務所の顧客層や連携先によって異なります。
重要なのは、紹介件数を「連携先との関係が良いか悪いか」だけで捉えないことだと思います。
どの工程で紹介候補が減っているのかを把握すれば、改善すべき場所が見えてきます。
「出す側」に回ると、連携先との会話が変わります
紹介を出す仕組みができると、連携先との会話も変わってきます。
「何か案件があればお願いします」という会話だけではなく、
「先日ご紹介した方は、その後いかがですか」
「どのような相談が多いですか」
「もう少し早い段階でつないだ方がよいケースはありますか」
といった、具体的な顧客支援を起点とした会話が増えていきます。
一方的に紹介を求める関係から、互いに顧客の課題を解決し合う関係へ変わることで、連携先からも自然に相談が持ち込まれやすくなります。
紹介は、もらいに行くだけでは増えません。
自事務所の顧客が抱えている課題を発見し、適切な専門家につなぐ仕組みを持つこと。
その結果として、連携先からの信頼と紹介が積み上がっていくのだと思います。
まずは、直近の面談記録を見返す
最初から大がかりなシステムを導入する必要はありません。
まずは、直近の面談記録を数件見返してみてください。
- 空き家や不動産処分の悩み
- 一人暮らしや介護への不安
- 保険契約や保険金請求の問題
- 葬儀や死後の手続きへの不安
- 税務、法律、資産管理に関する相談
こうした情報が面談中に出ていたにもかかわらず、その後の提案や紹介につながっていないケースが、いくつか見つかるはずです。
紹介を増やす第一歩は、新しい連携先を探すことではありません。
すでに面談で得ている情報が、どこで流れているのかを確認することです。
連携先ごとの顧客像の整理や、面談での質問設計、面談記録からの紹介候補の抽出について、具体的に検討されたい場合は、ご相談ください。
