相続業務への生成AI活用具体的事例 ー 業務生産性で事務所格差が大きく広がる

2026.05.29 13:38


ChatGPTやGeminiなどの生成AIの急速な発達に伴って、「生成AIで業務効率化」という言葉はありふれたものになっています。

しかし、相続業務において「実際にどこに、どう組み込めるのか」を具体的な解像度で語れている事務所は、まだ少ないのが現実です。

一方で、実装の差はすでに動き始めています。
Samikaでも、ある支援先と共同で具体的な実装プロジェクトを進めており、その手応えから向こう1〜2年で事務所間の生産性格差は決定的に開くという確信を持つようになりました。

本記事では、その実装事例を紹介しながら、相続事務所が今後どう生成AIと向き合うべきかを考えます。

 

なぜ相続業務は生成AI実装と「相性が良い」のか

ヒアリング、書類作成、戸籍読取、転記、テンプレートへの差込み――。相続業務には、定型作業の比率が極めて高いという特徴があります。一案件あたりに発生する書類点数は多く、しかも書式・差込み内容のパターンは事務所内である程度標準化されています。

一方で、最終的な判断業務――遺産分割の組み立て方、税務上のリスク評価、相続人間の調整方針など――は、専門家の責任領域として明確に切り分けられます。

つまり、「判断はAIにさせない、転記だけを任せる」という設計が成立しやすい業務領域である、ということです。これは他業種で生成AI実装を進めようとしたときに苦労するポイントが、相続業務では構造的にクリアできるという意味で、大きなアドバンテージになります。

 

 

実装の前提となる4つの設計思想

具体的な実装内容に入る前に、設計思想を先に共有します。ここを誤ると、せっかくのAI導入が事務所運用に組み込めず、宙に浮く結果になりかねません。

 

 

① 既存テンプレートを尊重する

事務所が長年磨いてきた書式・書類フォーマットを一切変更せず、「差込み」だけを自動化する設計に倒します。

AI実装にあたって既存書式を作り替えると、スタッフの抵抗感が一気に高まります。「自分たちが慣れている書式のまま、転記だけが自動化される」状態を目指すことが、現場の受容性を担保する上で決定的に重要です。

 

 

② AIに判断させない・転記だけさせる

税理士・司法書士の判断を要する業務は、AIに任せません。あくまで、面倒な転記・書類作成・整理といった作業のみを自動化対象にします。

「AIに判断させる」設計は、責任の所在を曖昧にし、結果として事務所のリスクを増やすだけです。判断は人、作業はAIという線引きを明確にすることが、安全かつ持続的なAI活用の前提になります。

 

 

③ 「全自動」を狙わない

業務の8割を自動化し、最後の確認は必ず人間が行う運用に倒します。

「100%自動化」を狙うと、設計コストが跳ね上がる上に、トラブル時の責任所在が不明確になります。8割を自動化するだけでも、現場の体感としては劇的な変化が生まれます。

 

 

④ ローカル完結のセキュリティ設計

顧客情報をクラウドに送らない設計にしています。すべての処理は事務所内のPCで完結し、案件情報が外部サーバーに流れることはありません。

相続業務は顧客の財産情報・家族関係情報という極めてセンシティブな情報を扱います。クラウドサービスを安易に使うのではなく、ローカル完結を前提に設計することで、心理的安全性と実務的なセキュリティを両立させています。

 

 

実装事例:受任から残高証明書受領まで、工程ごとの自動化

Samikaで進めている、とある相続特化型税理士法人様との共同プロジェクトの内容をご紹介します。Anthropic社の「Claude Code」を活用し、相続業務の定型書類作成を「数時間」から「数分」へ圧縮するシステムを内製で構築しています。

実装内容は、相続業務の工程に沿って4つのフェーズに分けられます。

 

 

Phase 1|受任時の書類セット自動生成

案件情報をブラウザ1画面に入力すると、ワンクリックで受託カード(Excel)と書類送付状(Word)が一括生成されます。

書類送付状だけで51種類のテンプレートを整備しており、案件パターンに応じて自動で差込み・出力されます。受託時に発生する「あれもこれも書類を準備しなければ」という時間を、ほぼゼロに近づけることができます。

 

 

Phase 2|戸籍収集後の関係図生成

集めた戸籍PDFをAIが読み取り、構造化データに変換した上で、相続関係説明図と法定相続情報一覧図を自動生成します。

一人分の戸籍が数十ページに及ぶケースでも、読取から相関図化までが数分で完了します。従来は半日かかっていた工程です。

 

 

Phase 3|金融機関照会時の申請書一括作成

残高証明書の取得依頼に必要な各金融機関宛の申請書を、最大8行分まとめてPDFで一括出力します。

銀行ごとに異なる書式・記入欄に対応した差込みが自動で行われるため、1〜2時間かかっていた手作業が数分で完了します。

 

 

Phase 4|残高証明書受領後の案件情報更新

受領した残高証明書の内容を取り込むと、受託カードが自動で更新されます。

案件管理の「最新情報がどこに記載されているか分からない」状態を防ぎ、常に1つのマスターデータが最新の状態に保たれます。

このほか、必要書類のご案内(相続人の人数に応じてブロック自動増減)、委任状、復代理委任状18種類など、相続業務で発生するあらゆる定型書類が「数秒〜数分」のクリック作業で生成される状態が整いつつあります。

 

 

効果:「数時間」が「数分」に置き換わる

具体的な作業時間の変化は以下の通りです。

業務従来自動化後
受託カード作成30分〜1時間数秒
書類送付状(複数種)30分以上1分以内
戸籍読取→相関図作成半日数分
残高証明書申請書(8行分)1〜2時間数分
必要書類のご案内30分数秒

累計すると、1案件あたり半日〜1日相当の作業時間削減が見込まれます。年間取扱案件数を掛け合わせると、人件費換算で年間数百万円規模の生産性向上に相当します。

スタッフが定型作業から解放されることで、本来注力すべきヒアリング・提案・追加サービスの設計に時間を振り分けられるようになります。これは単なるコスト削減を超え、事務所の収益構造そのものを書き換える効果を持ちます。

 

 

「数千万円のシステム開発」が「専門知識×アイディア」に置き換わった

ここで強調したいのは、こうした実装にかかる費用と期間が、ここ1〜2年で劇的に下がったという事実です。

かつては、相続業務の定型書類自動化を実現しようとすれば、外部ベンダーに数千万円規模のシステム開発を発注する必要がありました。発注から稼働まで半年〜1年、運用開始後も改修のたびに追加コストが発生する――これが従来の業務システム構築の現実でした。

しかし、Claude Codeのような開発環境が登場したことで、状況は一変しています。「事務所の業務課題を言語化できる人材」と「課題解決のアイディア」さえあれば、1機能あたり数時間〜数日で動くものができる時代に入っています。

外部ベンダーに依存せず、現場の課題感を起点に内製で実装できるということは、改修も継続的な進化も自分たちのペースで進められるということです。これは事務所にとって、極めて大きな構造変化です。

 

 

「使える事務所」と「使えない事務所」を分けるもの

生成AI実装で事務所間に格差が生まれる理由は、ツール導入の有無ではありません。

決定的な分水嶺は、業務プロセスを言語化・標準化できているかどうかです。

  • どんな手順で受託カードを作っているか、説明できるか
  • 書類送付状は誰が、どんな判断で、どのテンプレートを選んでいるか
  • 戸籍を読んでから相関図に落とすまでの、頭の中の処理が言語化できているか

これらが言語化されていない属人化された業務は、AIには実装できません。
逆に言えば、AI実装に向けてプロセスを整理する作業は、属人化解消と業務標準化そのものです。

生成AIを実装できる事務所と、できない事務所の本当の違いは、ツールへの感度ではなく、自分たちの業務をどこまで構造的に把握しているかにあります。

 

 

1〜3年後、同じ報酬で2倍以上の処理量を回す事務所が現れる

生成AI実装の差は、向こう1〜3年で事務所間の固定費負担の差として顕在化してきます。

同じ報酬単価で受任しても、生産性で2倍以上の処理量を回せる事務所と、従来通りの手作業で回している事務所とでは、利益率に決定的な開きが生まれます。人材獲得難・人件費上昇が続くこれからの時代、この差は採用余力・賃上げ余力・投資余力の差に直結します。

「うちの事務所は手作業でも回っているから」と判断を先送りした結果、3年後に「半日かかる作業が数分で終わる」事務所と同じ報酬単価で競うことになる――。この構造的なリスクを、経営者として認識しておく必要があります。

 

 

生成AIは「導入するかどうか」を議論する段階を過ぎている

「生成AIを導入するかどうか」を議論する段階は、もう過ぎています。

問いはすでに、「どこから、どう組み込むか」に移っています。これを具体化できる事務所だけが、向こう数年の競争環境でポジションを取れます。

Samikaでは、相続業務における生成AI活用の実装を、支援先事務所と共同で進めています。本記事で紹介した内容に関心を持たれた事務所様、または「自事務所でもどう実装すべきか相談したい」という事務所様は、ぜひお問い合わせください。

事務所の業務工程に合わせて、どこから着手するのが現実的か、どんな設計思想で進めるべきかを、具体的にご相談いただけます。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

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