相続市場に参入する業種が非常に増えてきました。士業事務所はもちろん、金融機関、保険会社、不動産会社、最近では葬儀業界や介護関係会社など様々です。
しかし、全ての業種、企業が相続ビジネスに成功しているわけではありません。
相続ビジネスでうまくいく会社、業種といかない会社、業種。この違いはどこから生まれるのでしょうか。
そこには、相続ビジネスの本質に関わる構造的な理由があります。
「本当の目的」が透けて見える問題
多くの企業が相続分野に参入する理由は比較的明確です。
それは 本業の商品・サービスにつなげるため です。
例えば
- 不動産会社であれば、相続不動産の売却仲介
- 保険会社やFP会社であれば、生命保険や金融商品の販売
といった形です。
つまり、相続相談を入り口として、自社の収益源となる商品へつなげる導線を作りたいというビジネスモデルです。
もちろん、このビジネスモデル自体が悪いわけではありません。
しかし問題は、その意図が顧客に早い段階で伝わってしまうケースが少なくないことです。
例えば、ある士業事務所が行った顧客アンケートでは、他業種の相続相談サービスを利用した顧客の一定数が「相談の途中で商品の提案が中心になっていると感じた」と回答しています。
相続の悩みを相談したはずが、いつの間にか不動産売却や金融商品の話が中心になってしまう。
このギャップが、顧客との信頼関係に影響することもあります。
相続ビジネスは「階段型ビジネス」
相続ビジネスの特徴を理解するには、その収益構造を見ると分かりやすいでしょう。
相続業務は、いきなり大きな収益が生まれる「エレベーター型」ではなく、信頼を積み重ねながら段階的に進む 階段型ビジネス と言えます。
典型的な相続案件では、次のような流れになることが多くあります。
- 初回相談(無料または低額)
- 財産調査・相続関係調査
- 遺産分割のサポート
- 相続手続きや名義変更
- 不動産の売却・活用の相談
事務所ごとに料金体系は異なりますが、一般的に初期段階の業務は収益性が高いとは言えず、専門知識と手間が必要な業務でもあります。
一方で、不動産の売却や活用の相談は、案件によっては比較的大きな経済価値が生まれる可能性があります。
しかし、顧客の立場からすれば、相続の全体像が整理されていない段階で不動産の売却の話をされても、判断が難しいことが多いでしょう。
相続は、人生の中でも重要な局面の一つです。
そのため顧客は
「この人は本当に自分たちの状況を理解しようとしているのか」
「それとも何かを売ろうとしているのか」
という点を、非常に慎重に見ています。
ある士業事務所のアンケート調査では、相続相談後の顧客満足度において、専門家としての信頼感を評価する声が多く見られました。
もちろん、すべてのケースが同じではありませんが、相続業務を本業として取り組んでいる専門家の姿勢が信頼につながる場面は少なくありません。
士業事務所にとって、相続相談や相続手続きは本業そのものです。
他業種にとっては
- 手間がかかる
- 専門知識が必要
- 収益性が見えにくい
と感じられる業務であっても、士業にとっては専門性を発揮できる領域でもあります。
この違いは、顧客対応にも表れます。
士業は、相続手続きそのものが目的であり、業務の中心です。
そのため、顧客の状況を丁寧に整理しながら、最適な解決策を提案することができます。
この過程で築かれる信頼関係は、相続ビジネスにおいて非常に重要な資産になります。
相続手続きを通じて築かれた信頼関係は、その後の相談にもつながることがあります。
相続案件では、多くの場合、不動産が関係するためです。
空き家問題
共有不動産
相続不動産の売却
など、不動産に関する課題は非常に多く見られます。
ある事務所では、相続手続き完了後も継続的にフォローを行うことで、不動産に関する相談を受ける機会が増えたという事例もあります。
このように、信頼関係を前提とした相談の延長として不動産の課題に対応することで、顧客にとっても自然な形で問題解決が進むことになります。
相続ビジネスは、単なる商品販売のビジネスではありません。
顧客の人生の重要な局面に寄り添いながら、信用を積み重ねていくビジネスです。
だからこそ、相続手続きという専門性の高い業務に真摯に向き合う士業事務所は、この分野で重要な役割を担っています。
そして、その信頼を不動産などの周辺分野にも広げていくことで、顧客にとっても事務所にとっても価値のある相続サポートが実現できるのではないでしょうか。
他業種の参入が相次ぐ今だからこそ、士業事務所の本質的な強みを改めて見直すことが重要になっています。

