士業事務所経営でよくある経営者の悩み【マネジメント編】

2026.02.10 11:22

事務所規模ごとに変わる経営者の役割と取り組むべきこと

「自分がいないと事務所が回らない」
「人を増やしたのに、むしろ忙しくなった」

相続・生前対策分野で実績を積まれてきた士業事務所の経営者の方から、こうしたご相談をいただくことも多いです。

実は、事務所の成長過程において、経営者に求められる役割は大きく変化します。本記事では、主に事務所や相続部門が20名程度までで、事務所規模(スタッフ人数)ごとに「経営者の役割」「起きやすい課題」「取り組むべきこと」を整理してお伝えします。


事務所規模ごとの経営者の役割変化

事務所規模

経営者の主な役割

この段階の特徴

〜5名

プレイヤー兼マネージャー

所長が実務の大半を担い、「自分がやった方が早い」状態。

〜10名

マネージャー中心

マネジメントに時間を取られ、「人が増えたのに楽にならない」

〜15名

集客・採用責任者

実務から離れ、マーケティング・採用・育成に注力する段階


【〜5名】プレイヤーから離れられない段階

この段階で起きやすい課題

  • 所長がいないと業務が止まる

  • 業務の進め方が標準化されていない

  • 所長への質問・確認が集中する

この段階では、所長ご自身が実務の中心です。業務の多くが「所長の頭の中」にあるため、スタッフは増えても所長の負担は減らないという矛盾が生じやすい時期です。

このフェーズで取り組むべきこと

1. 業務フローの可視化・文書化

まずは「誰が・何を・どの順番で・どうやって処理しているか」を書き出しましょう。最初から完璧を目指す必要はありません。主要業務2〜3つから始めて、「今、実際にどう動いているか」を可視化することが重要です。

2. チェックリストの整備

「誰がやっても同じ品質になる」ための仕組みづくりです。

例:

  • 相続登記の必要書類リスト(ケース別)
  • 初回面談時の確認事項リスト

  • 申請前の最終確認リスト

チェックリストがあれば、スタッフは「何を確認すればいいか」が明確になり、所長への質問も減ります。


3. よくある判断パターンの言語化

「こういう時はこう対応する」という判断基準を言語化しておくと、スタッフが自分で判断できる範囲が広がります。

例:

  • 「戸籍が取得できない場合 → まずは本籍地の役所に電話確認。不明な場合は所長に相談」

  • 「相続人が10名以上 → 初回面談時に所長同席」

【〜10名】人が増えたのに楽にならない段階

この段階で起きやすい課題

  • マネジメント業務が増え、所長の時間が逆に減る

  • 中間管理層がおらず、所長に判断が集中

  • 「指示待ち」の空気が強くなる

人が増えたことで、スタッフ同士の調整、進捗確認、トラブル対応など「見えない仕事」が日常化します。また、スタッフ側も「判断に迷ったら所長に確認」という動きが習慣化し、所長への依存度は下がりません。

このフェーズで取り組むべきこと

1. 中間リーダー層の配置・育成

この規模になると、所長が全員を直接マネジメントするのは構造的に無理が出てきます。まずはリーダー候補を1〜2名選定しましょう。

選定基準:

  • 業務スキルが一定以上ある

  • 周囲から信頼されている

  • 責任感がある

最初から完璧なリーダーである必要はありません。少しずつ権限を委譲していきます。

2. 権限委譲マップの作成

「何をどこまで任せるか」を明確にしましょう。

例:

業務内容

スタッフ判断

リーダー相談

所長相談

戸籍取得

通常ケース

取得困難

-

遺産分割協議書

相続人3名以下

4〜9名

10名以上

こうした線引きがあると、スタッフは安心して動けます。

3. 定例ミーティングの設計

週1回、30分程度の進捗共有ミーティングを設けましょう。「報告のための報告」にならないよう、実務で困っていることを解決する場として位置づけることが重要です。

4. 業務KPIの設定と振り返り

「何となく忙しい」から脱却するために、数字で業務を見る習慣をつけましょう。

例:

  • 月間の新規相談件数

  • 受任率(相談→受任への転換率)

  • 案件の平均処理日数

これらを月次で振り返ることで、改善ポイントが見えてきます。


【〜15名】集客・採用に注力する段階

この段階で起きやすい課題

  • 所長一人では全体が見えなくなる

  • 部門間の連携不足・情報の分断

  • 定期的な退職者発生、採用・教育の必要性

  • 次世代リーダーの不在

ここからは、所長が実務から離れ、**事務所の成長に必要な活動(集客・マーケティング・採用・育成)**に時間を使う段階です。

このフェーズで取り組むべきこと

1. 部門制・チーム制の確立

事務所を機能別に分けましょう。

例:

  • 相続登記チーム

  • 生前対策チーム

  • バックオフィスチーム

各チームに責任者を配置し、チーム内の業務管理はチーム長に任せます。所長は各チーム長とのコミュニケーションを通じて全体を把握する形に移行します。

2. 集客・マーケティング活動への注力

実務から離れた時間を、事務所の成長に直結する活動に振り向けます。

  • Web集客の強化(SEO、広告運用)

  • セミナー開催

  • 紹介営業の仕組み化

  • 地域連携の強化

3. 採用・教育体制の整備

この規模になると、退職者も一定数発生します。そのため、計画的な採用と早期戦力化が必要です。

新人教育プログラムの例:

  • 入社1週目:事務所ルール、システムの使い方

  • 入社2週目〜1ヶ月:先輩の補助業務

  • 入社2ヶ月目〜:簡単な案件を担当(先輩がダブルチェック)

  • 入社3ヶ月目〜:独り立ち

教育プロセスを標準化することで、誰が入社しても一定のスピードで戦力化できます。

4. 経営計画の策定と共有

「今年はどこを目指すのか」を明文化し、スタッフ全員と共有しましょう。

経営計画に含める項目:

  • 売上目標

  • 注力分野

  • 採用計画

  • 投資予定(広告費、システム導入等)

「何のために働いているのか」が見えると、スタッフのモチベーションも変わります。


なぜ、一人では難しいのか

ここまでお読みいただき、「やるべきことはわかるが、実際に進めるのは大変だ」と感じられた方も多いのではないでしょうか。

多くの経営者が、この変化の過程で苦労されています。それは、能力や努力の問題ではありません。

  • 日々の業務に追われ、俯瞰的に捉える時間が取れない

  • 段階ごとに必要なことが違い、何を優先すべきか判断しにくい

  • 自分の事務所のことは客観視しにくい

  • 試行錯誤する時間的余裕がない


株式会社Samikaでは、士業事務所の組織づくり、マネジメント体制構築をサポートしています。

  • 現状の業務フローの可視化

  • 優先的に取り組むべき課題の整理

  • マニュアルやチェックリストの作成支援

  • リーダー育成プログラムの設計

  • 経営計画の策定サポート

など、貴事務所の成長段階に応じた伴走型の支援が可能です。

自立した部門・組織づくりでお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。



執筆者のご案内

株式会社 Samika 
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

代表ブログ(note)|相続・士業ビジネスに関する考察を発信しています