
「相続登記義務化を伝えれば、相談は増える」。
そう考えて制度の周知に力を入れてきた先生方は、少なくないと思います。
ところが、最新の調査は、その前提がすでに揺らいでいることを示しています。
認知は、以前と比べて大きく広がりました。
それでも、人は動いていない。
行動を分けているのは、情報の量ではなく、それが「自分ごと」になるタイミングだったのです。
カチタス調査が示す、本当に見るべきポイント
カチタスが2026年に公表した「第6回 空き家所有者に関する全国動向調査」では、相続登記義務化の認知率が70.0%に達しました。
2021年の調査開始時と比べると、およそ3倍です。
空家特措法の認知は58.0%、家族との対話率は72.5%と、いずれも過去最高を更新しています。
そのため、これからは「知らない人に伝える」だけでなく、「分かっていても動けない人をどう動かすか」が重要になっています。
同じ調査には、見過ごせない数字も並んでいます。
「今後3年以内に取る対策がまだわからない」と答えた人は25.5%。
4人に1人が、いまだ何も決められていません。
さらに、空き家対策を「重要だ」と考える人は約7割にのぼる一方で、実際の取り組みの優先度は5割まで下がります。
意識と行動のあいだに、2割ほどのギャップが残っているのです。
そして、家族と話せていない人ほど、動けていない傾向がはっきり出ています。
「分かっているのに動けない人」をどう動かすか──ここに、これからの事務所の差がついていくのだと思います。
行動を止めているのは、情報不足ではない
取り組みの優先度を高く置かない理由の第1位は、「まだ困っていない・緊急性を感じない」で39.7%でした。
知識が足りないのではありません。
動く理由が、まだ自分の中に立ち上がっていないのです。
そもそも相談者が悩んでいるのは、「登記をするかどうか」ではないと思います。
- 実家を、この先どうするのか
- 売るのか、残すのか
- 誰が住むのか
- 空き家になってしまうのではないか
こうした暮らしの課題こそが本丸で、相続登記はそれを解決するための一つの手続きにすぎません。
もちろん、相続登記義務化を正しくお伝えすることは、今後も大切です。
ただ、それだけでは、「分かっているのに動けない人」を動かすには足りないのだと思います。
では、何が人を動かすのか。
調査によれば、家族の対話が始まるきっかけの上位は、「相続をした」27.2%、「固定資産税の納税通知を受け取った」21.2%、「維持管理や税の負担が重くなった」20.5%でした。
いずれも、負担やリスクが目の前に現れた瞬間です。
人を動かすのは情報の量ではなく、それが自分ごとになるタイミングだと、調査結果は語っています。
入口は「相続登記」ではなく「相続不動産相談」
ここが、今日いちばんお伝えしたい点です。
相続登記を入口にすると、手続きが終わった瞬間に、相談者との関係も途切れてしまいます。
そこで入口を、「相続不動産をどうするか」という相談に置き換えてみます。
すると、話は自然に広がっていきます。
売却、空き家の管理、家族信託、遺言、生前対策、認知症への備え、そして二次相続。
相続登記という「点」ではなく、相続不動産相談という「面」から入ることで、事務所が提案できる領域が一気に広がるのです。
もちろん、税務や不動産の売却が絡む場面では、必要に応じて税理士や不動産会社と連携しながら進めていくことになります。
司法書士がすべてを抱え込むのではなく、相談者にとっての「最初の窓口」になる、というイメージです。
しかも、先生方が相続手続きで相談者と向き合うその瞬間は、相談者にとって「実家をどうするか」が最も自分ごとになっている時間です。
言い換えれば、先生方はすでに、最も動きやすいタイミングのお客様と接しています。
この記事の主役を、相続登記ではなく相続不動産相談に置きたいのは、そのためです。

面談を「登記の完了」で終わらせない
この発想は、明日の面談から試せます。
相続登記の手続きを終えたあと、こんな一言を添えてみてはいかがでしょうか。
「ご実家は、今後どうされるご予定ですか?」
あるいは、もう少し具体的に、次のような問いも有効だと思います。
- 相続後、この不動産にはどなたかがお住まいになる予定ですか?
- 売却・賃貸・保有のうち、どれを想定されていますか?
- 今後、空き家になる可能性はありそうですか?
- 固定資産税や管理のご負担について、ご家族で話されていますか?
制度の説明を増やす必要はありません。
相談者が最も動きやすいこのタイミングで、相続不動産について一歩だけ踏み込んで尋ねる。
それだけで、遺言や家族信託、生前対策へと話が広がっていくことは、決して珍しくないと思います。
セミナー・情報発信も「暮らし」から入る
「相続登記義務化セミナー」という切り口は、認知が広がった今、少しずつ弱くなっていくように思います。
制度を主語にすると、「もう知っている」人は足を運びにくいからです。
代わりに、暮らしを主語にしたテーマから入ります。
- 相続登記の前に考えたい、実家の売却・空き家対策
- 親の家を空き家にしないために、家族で話しておきたい5つのこと
- 相続した実家、売る・残す・貸す? 司法書士が整理する最初の一歩
生活者が「これは自分の話だ」と感じられるテーマから入り、その流れで自然に相続登記や生前対策へつなげていく。
さらに、固定資産税の納税通知が届く4〜6月や、家族が集まるお盆など、自分ごとになりやすい時期に情報を届けておくと、同じ内容でも相談につながりやすくなります。
商品設計も「相続不動産全体」へ広げる
入口と面談、発信を変えるなら、商品の並びも合わせて広げておきたいところです。
- 相続不動産相談
- 空き家診断
- 実家の将来相談
- 売却・保有・賃貸の選択肢を整理する相談
- 不動産会社や税理士と連携した、相続不動産の出口相談
- 家族会議のサポート
相続登記だけを商品として掲げるのではなく、相続不動産全体を相談できる設計にしておく。
価格や税額そのものは不動産会社・税理士の領域ですから、司法書士事務所は「選択肢を整理し、次につなぐ」役割に徹するのが自然だと思います。
こうした受け皿があると、登記の完了が「関係の終わり」ではなく「次の相談の入口」に変わります。
遺産分割協議書をお渡しするタイミングは、二次相続の話を切り出す絶好の機会でもあります。
「登記の専門家」から、一歩先へ
実際に、こうした発想の転換で手応えを得ている事務所もあります。
とある相続特化型の司法書士事務所様では、面談の締めくくりに「ご実家の今後」を必ず一言うかがう運用に変えたところ、相続登記の受任にとどまらず、遺言や家族信託のご相談へと広がるケースが目に見えて増えたそうです。
説明する制度の量を増やしたのではなく、相談者が自分ごととして考えられる「問い」と「タイミング」を整えただけ、という点が示唆的だと思います。
Samikaでは、こうした相続客との接点設計やフォロー導線の仕組み化について、士業事務所向けに情報発信・支援を行っています。
相続登記義務化の認知は、以前と比べて大きく広がりました。
これからの差別化は、制度を「正しく説明できること」よりも、相続不動産という切り口から、相談者が動きたくなる問いとタイミングをどれだけ設計できるかにかかっていると思います。
相続不動産を入口に、生前対策や相続対策全体まで提案できる存在へ。
その一歩が、これからの相続市場で選ばれる事務所と、そうでない事務所を静かに分けていくのだと思います。
