「いつも忙しい」相続注力事務所が見落としている人材採用の判断に必須な「業務生産性」

2026.04.03 12:29

増え続ける業務、追いつかない採用…悪循環

「スタッフはいつも忙しそうにしており、集客や営業活動に注力できない」
「人が足りないから、先行的な取組みに注力できない」

こうした悩みを抱える相続・生前対策注力事務所の代表者は少なくありません。
相続登記義務化の影響もあり、問い合わせや受任件数は増加傾向。

しかし、事務所が繁忙状態に陥り、むしろスタッフの残業代や退職懸念が増える。
採用コストで利益を圧迫しているケースも見受けられます。

集客・営業活動などのマーケティングに成功しているのに、その流れをストップせざるを得ない。
競争環境も厳しい相続分野での、この「足止め」は事務所経営的にも致命傷になる可能性もあります。


客観的に「人が足りないのであれば採用すればいいのでは」と思えるのですが、なかなかそういう判断ができないものです。

「まだ限界ではない、今の人数体制でもやれるはず」
「今後も集客が成功して、売上が増やせるかどうかが分からないから人は増やせない」

こういった人材採用に関する問題の根本には、多くの事務所が「生産性」という視点を持たずに経営している実態があります。

忙しさに追われるあまり、本当に必要な人員数や、各スタッフがどれだけの付加価値を生み出しているかを把握できていないのです。

 


なぜ「忙しい」のにスタッフ採用を決断できないのか

 

採用判断の多くは「感覚」に頼っている現実

相続注力事務所における採用のきっかけは、多くの場合「現場から人手不足の声が上がったとき」です。しかし、その判断基準は極めて曖昧です。

「最近みんな遅くまで残っているから」
「案件が立て込んでいて手が回らないから」
「○○さんが辞めたから補充しないと」

こうした「なんとなくの忙しさ」を根拠に採用を決めても、本質的な解決にはなりません。

なぜなら、業務の非効率性や属人化といった構造的な問題を放置したまま人を増やしても、同じ問題が再現されるだけだからです。

 

見えていない「生産性格差」の実態

同じ相続登記業務でも、スタッフAは月20件処理できるのに、スタッフBは月10件しか処理できない
こうした生産性の差は、どの事務所にも存在します。

しかし、多くの事務所では個人別・チーム別の生産性を数値で把握していません。

支援先事務所での分析例を見ると、同じ業務でもスタッフ間で2〜3倍の生産性格差があることは珍しくありません。
この差を把握せずに「忙しそうだから人を増やす」という判断を続けていては、「成長ができない事務所体制」を作ることになります。

 

生産性を可視化し、戦略的な人員計画を立てる方法

 

ステップ1:業務別・スタッフ別の生産性測定

まず着手すべきは、現状の生産性を数値で把握することです。具体的には以下の指標を月次で追跡します。

基本的な生産性指標

  • スタッフ1人あたり月間処理件数
  • スタッフ1人あたり月間売上高
  • 業務種別ごとの平均処理時間
  • チーム別の案件処理効率

支援先のある司法書士法人では、この分析により「全ての支店が業務過多状態」「平均一人当たり生産性(1,200万/人)を大きく上回っている」といった事実が判明。

生産性が高いこと自体は悪いことではないですが、各チームは常に業務過多状態が続き、反響管理情報の入力、集客施策への取組みが多忙を理由に定着しない、という状態が続いていました。


事務所代表に確認すると、採用の目安となる指標、生産性のKPIを把握・管理できていなかったという事が判明しました。

 

ステップ2:目標生産性の設定と現実とのギャップ分析

現状把握ができたら、次は「あるべき生産性」を設定します。例えば:

  • 相続登記担当者:月25件処理(現状平均15件)
  • 遺産整理担当者:月3件完了(現状平均2件)
  • 補助者の書類作成:1件あたり30分以内(現状平均50分)

この目標と現状のギャップを埋めるために必要な施策(業務フロー改善、ツール導入、教育研修等)を検討し、実行します。

 

ステップ3:先行指標に基づく人員計画

生産性データが蓄積されれば、将来の業務量予測に基づいた戦略的な採用が可能になります。

人員計画の計算例

  • 3ヶ月後の予想月間相談件数:60件
  • 想定受任率:65%(=月間39件の新規受任)
  • 1人あたり月間処理能力:20件
  • 必要人員数:2名(既存スタッフで不足する場合は採用)

このように、感覚ではなくデータに基づいて採用判断を行うことで、「採用したけど仕事がない」「採用が間に合わず機会損失」といったミスマッチを防げます。

 

中長期施策:生産性を前提とした組織設計

生産性管理を組織文化として定着させるには、以下の仕組み化が重要です。

  • KPIダッシュボードによる生産性の見える化
  • 月次での生産性レビュー会議
  • 生産性向上に対するインセンティブ設計
  • 採用時の生産性目標の明確化

こうした仕組みを整備することで、「忙しいから人を増やす」という場当たり的な採用から、「この生産性を実現するために必要な人材を計画的に採用する」という戦略的な人材マネジメントへの転換が可能になります。

 


「忙しい」から「生産的」へ——データが導く収益性の高い事務所経営

相続・生前対策市場の拡大は、確かに大きなビジネスチャンスです。
しかし、「忙しい」ことと「儲かる」ことは必ずしもイコールではありません。

生産性という視点を持たずに規模拡大を続ければ、売上は増えても利益率は低下し、スタッフは疲弊し、サービス品質も低下するという負のスパイラルに陥ります。

感覚経営から脱却し、データに基づいた経営判断を行う時です。
業務生産性を可視化し、戦略的な人員計画を立てることで、真に収益性の高い事務所経営が実現できます。

まずは現状の生産性測定から始めてみてはいかがでしょうか。
スタッフ別・業務別の処理件数や所要時間を記録し、分析することで、思わぬ改善ポイントが見つかるはずです。


執筆者のご案内

川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。

相続分野 2026年
最新トレンドレポート

競合環境の変化・集客戦略・LTV向上まで、2026年の戦略立案に役立つ情報を網羅。相続分野に注力する士業事務所の経営者・部門責任者の方にお読みいただきたい内容です。

無料でダウンロードする

Samikaの経営コンサルティングに
​直接相談する

集客・マーケティング戦略や業務生産性向上などのご相談、コンサルティングのお問い合わせはお気軽にご連絡下さい。