相続相談の現場では、「この土地、どうすればいいですか…」と途方に暮れる相続人に出会うことが少なくないのではないでしょうか。
山林、郊外の遊休地、管理できない別荘地――評価が付きづらい、いわゆる「負動産」です。
多くの士業事務所は、こうした不動産への対応を積極的には行っていません。
しかし、それは本当に「専門家として正しい姿勢」なのでしょうか。本稿では、負動産対応を事務所の業務として組み込む意義と、具体的な方法を解説します。
相続の専門家である士業が、相続不動産の問題に積極的に関わらない背景には、以下のような現実的な懸念があります。
- 大変な割に報酬が得られない(費用対効果の問題)
- 処分に関与することで責任が生じるリスクへの警戒
- 普段紹介している不動産業者は対応してくれない(評価の付く不動産との抱き合わせなら対応してくれるけど…)
- 負動産を扱える不動産業者のつてがない
こうした懸念は理解できます。しかし、それによって「問題を見て見ぬふりをする専門家」になっていないか、一度立ち止まって考える必要があります。
虫歯の治療に来た患者に対して、他の歯に虫歯の予備軍があると気づいていても、何も言わずに帰す歯医者――あなたはその歯医者をどう評価しますか?
相続相談でも、同じことが起きています。依頼人が「相続登記をしてほしい」と来た時、その中に明らかに処分に困りそうな不動産が含まれていても、言及しないまま手続きを終わらせてしまう。
評価が付かない不動産は間違いなく「負債」です。今回の相続で対応せずとも将来の相続で相続人となる方々は必ずこの問題に直面します。負債を抱えることになる相続人に負担がかかる、相続トラブルに発展する可能性がある。
依頼人が後になって「あの土地をどうすればよかったか、教えてもらえれば良かった」と後悔するケースは、決して少なくないはずです。
日本全体で空き家・所有者不明土地が増え続けている背景には、こうした「専門家による課題の見過ごし」も一因としてあると考えるべきではないでしょうか。
相続の専門家として、負動産に対して最低限すべきことは以下の3点です。
相続財産の棚卸しをする段階で、「評価はほとんどつかないけれど、正直どうしたらいいかわからない不動産はありませんか?」と一言添えるだけで、相続人の本音が引き出せます。専門家から聞かれて初めて「実はあるんです…」と打ち明けられる依頼人は非常に多いです。
2023年4月に施行された「相続土地国庫帰属制度」は、条件を満たせば相続した土地を国に引き渡せる制度です。一方で、負動産専門の不動産業者に依頼することも有効な選択肢です。両者の特徴を比較した上で、依頼人に説明できるようにしておきましょう。
「普段の不動産業者は嫌がるだろう」という思い込みは、多くの場合、確認していないだけです。実際には、山林・郊外の遊休地の「負動産処分」を専門に扱う業者が全国に存在します。
そうした業者と事前に関係を築いておくことで、依頼人に対して「この業者に相談してみてください」と自信を持って紹介できるようになります。これが、専門家としての信頼につながります。
ここまでの対応を、単なる「おまけのサービス」として無償で行う必要はありません。むしろ、適切な報酬体系を設けることが、専門家としての継続的な関与を可能にします。
司法書士が遺産整理業務の中で「不動産売却代理」を行うことは、すでに実務で広く取り組まれています。「負動産処分サポート」も、これと同じ考え方で整理できます。
- 依頼人から「負動産処分サポート報酬」として一定の費用をいただく
- 業者選定・紹介・交渉の窓口として関与する
- 売却完了時に成功報酬を設定する形も検討できる
「依頼人に追加費用をお願いするのは申し訳ない」と感じる専門家も多いですが、逆に考えてください。何も言わずに手続きを終えてしまうことで、依頼人は何年も「あの土地どうしよう…」と悩み続けるかもしれません。
専門家として問題を発見し、解決の道筋をつけることには、明確な価値があります。その価値に対して、適切な対価をいただくことは、専門家としての誠実さの表れです。
負動産への対応を積極的に行う士業事務所は、まだ多くありません。だからこそ、この領域に踏み込むことは、差別化のチャンスでもあります。
今日からできることをまとめると、以下の3点です。
- 相続相談の場で「手放せない不動産はないか」を確認する習慣をつける
- 国庫帰属制度と負動産専門業者の両方の概要を把握しておく
- 地域の負動産専門業者にコンタクトを取り、紹介できる関係を作っておく
依頼人にとって「相続の専門家に頼んで本当に良かった」と思われる事務所は、手続きを正確にこなすだけでなく、気づかなかった問題に気づかせてくれる事務所です。負動産への向き合い方は、そのひとつの試金石です。

