業界の境界線が溶け始めている
2025年末から2026年初頭にかけて、相続・生前対策を取り巻く業界で注目すべき動きが相次いでいます。
FP×士業、保険×終活、介護×身元保証といった異業種間の業務提携や資本提携が立て続けに発表され、従来は独立していた領域同士が急速に接近している状況です。

いま起きている主な動き
FP×士業のワンストップ化(FPパートナー×ベストファーム)
2025年12月、FP相談サービス「マネードクター」を運営するFPパートナーが、士業総合グループのベストファームと業務提携を発表しました。
FP相談を入口として、相続・税務・不動産・高齢者サポートまで全国規模でカバーする設計です。これは保険・資産形成の相談窓口が、生前対策・相続手続きへの送客導線を整備したことを意味します。
保険×介護×終活の統合プラットフォーム化(SOMPO HD×鎌倉新書)
鎌倉新書がSOMPOホールディングスと資本業務提携を締結し、介護施設入居時の身元保証から遺言書作成、不動産整理、葬儀・相続手続きまでを段階的に提供する構想を明らかにしました。
介護・保険という巨大な顧客接点に、終身サポート全体が組み込まれる可能性を示しています。また、鎌倉新書は相続・介護に関わる不動産課題を扱うため仲介・買取再販事業を担う子会社を設立し、ワンストップ対応ができる体制を整えました。
身元保証の事業化・標準化の加速
身元保証事業者「あかり保証」が約1.3億円の資金調達を実施。
さらに業界団体「全国高齢者等終身サポート事業者協会(全終協)」が設立されるなど、身元保証・終身サポート分野が、個社の地域ビジネスから全国規模の産業へと移行しつつある様子が見て取れます。

相続・生前対策分野を巡る業界構造はどう変わろうとしているのか
「入口」が再編されている
これまで相続・生前対策の入口は、士業事務所による個別セミナーや地域での相談会が中心でした。しかし今起きているのは、FP・保険・介護・終活メディアといった既存の顧客接点を持つプレイヤーが、相続・生前対策を自らの提供範囲に組み込む動きです。
結果として士業は「最初に相談される存在」から「紹介される存在」へとポジションが変わりつつあります。これは集客の主導権が、士業の外側に移動していることを意味します。
「提供範囲」が拡張されている
従来、士業が提供してきたのは主に相続手続き・遺言作成・家族信託といった法的手続きでした。しかし現在求められているのは、身元保証・任意後見・死後事務・不動産整理・介護連携を含む「終身サポートの総合設計」です。
特に「おひとりさま」や身寄りのない高齢者の増加に伴い、生前から逝去後まで一貫して支える仕組みへのニーズが高まっています。相続手続きだけを提供する事務所は、こうした総合的なサポートを標榜する競合と比較されるようになっています。
「収益ポイント」が多層化している
相続分野の収益構造も変化しています。鎌倉新書の不動産子会社設立が象徴するように、プラットフォーマーは手続きの紹介料だけでなく、不動産仲介・買取再販・住み替え支援といった周辺収益を直接取りに行く方向に動いています。
士業にとっては、相続手続きの報酬以外に、どこで付加価値を生み出すかが問われる局面です。

相続・生前対策に取り組む士業事務所への示唆
中途半端な「相続手続き専門」だけでは選ばれにくくなる
今後選ばれやすくなるのは、生前の相談段階から関与し、必要に応じて身元保証・不動産・介護といった周辺領域と連携できる事務所と考えられます。「手続きが発生してから動く」モデルでは、他のチャネル経由で既に支援者が決まっている可能性が高まります。
連携設計が競争力を左右する
すべてを自前で抱える必要はありません。むしろ重要なのは提携先との連携フロー・案件管理の仕組み・顧客体験の設計です。FP、不動産業者、身元保証事業者、介護施設などと、どのように協働するかを標準化しておくことが差別化につながります。
相続発生後手続き業務で一点突破する
一方で、相続手続き領域を徹底的に極めるという方向性も存在します。AI・システム活用による業務生産性の向上、WEBマーケティングやBtoB紹介チャネルの開拓、遺産承継・相続税申告から相続不動産売却までの一貫対応を高度化する戦略です。ただしこの路線は、資本力と組織力を持つ大手事務所が有利であり、中小規模の事務所が同じ土俵で戦うのは現実的ではないでしょう。
つまり相続手続き専門を標榜するなら、規模を活かした効率化で勝負するか、生前からの関与と連携設計で差別化するか、自事務所の立ち位置を明確にする必要があるということです。
Samikaとしての視点
私たちは、この業界構造の変化を「脅威」ではなく「再定義のチャンス」と捉えています。
士業事務所が無理なく次のステージに進むために必要なのは、商品を増やすことではなく継続的にフォローできる仕組みと、信頼できる連携先との関係構築です。見込み客との接点を維持し、適切なタイミングで適切な支援を提供できる体制を整えることが、結果として選ばれる事務所になる近道だと考えます。

