相続案件の集客に苦戦する士業事務所の「共通点」とは

2025.09.11 16:54

まずは、以下の質問に答えてみてください

司法書士の先生方とお話しする機会が多い中で、

「相続分野の売上がなかなか伸びない」
「集客に力を入れているのに成果が頭打ちになっている」

といったご相談をよくお受けします。

そんな時、私たちが必ずお聞きするのが
「個別面談を行った方、セミナーや相談会で接点を持った方々に、その後どのようなフォローをされていますか?」
という質問です。

驚くことに、多くの先生方が「個別相談に繋がった方、受任見込が高い人以外は、特に何もしていません」とお答えになります。
つまり、せっかく獲得した見込み顧客の大部分を、事実上「捨てている」状態なのです。

これは非常にもったいない状況だと言わざるを得ません。
なぜなら、相続分野における顧客の特性を考えると、「今すぐ依頼したい」という方よりも「将来的に必要になるかもしれない」「いずれ検討したい」という潜在的なニーズを持つ方の方が圧倒的に多いからです。

先生方の「『見込客』の捉え方が間違っている」ことがポイント

例えば、生前対策に関するセミナーを開催したとします。参加者30名のうち、個別相談を希望される方は通常5名程度でしょう。
では、残りの25名は本当に「見込み客ではない」のでしょうか。

実際のところ、セミナーに参加される方々の多くは以下のような状況にあります。

まず、自分自身や家族の相続について漠然とした不安を抱えているものの、まだ具体的な行動を起こすほど差し迫った状況ではない。

次に、複数の事務所や専門家の話を聞いて比較検討したいと考えている。

そして、今すぐではないが、いずれ専門家に相談したいと思っている、といった状況です。


つまり、セミナー参加者の大部分は「将来的な見込み客」なのです。


しかし、多くの事務所では、こうした潜在的なニーズを持つ方々に対して継続的なアプローチを行っていません。
結果として、数ヶ月後、数年後に相続の必要性が生じた時に、他の事務所に依頼が流れてしまうのです。


成功事務所の「見込客」の捉え方

一方で、相続分野で安定して売上を伸ばしている事務所には共通点があります。

それは、「すべての接点があった方を「見込客」と捉え、リスト化している」ということです。


ある司法書士事務所では、セミナー参加者全員にLINE登録を促し、その後も主にLINEを通じて定期的に相続に関する有益な情報を配信し続けています。
内容は生前対策・財産管理の情報、相続手続きのポイント、実際の事例紹介など、受け取る側にとって価値のあるものばかりです。

この事務所の先生は「セミナーの時点では相談に至らなかった方でも、半年後、1年後に突然連絡をいただくことが珍しくありません。
継続的に情報発信を続けていることで、いざという時に私たちの事務所を思い出していただけるのです」と話されています。

実際、この事務所では月に2〜3件、「以前セミナーに参加した」「LINE で情報を見ていました」という方からの新規相談があるそうです。
これは決して偶然ではありません。継続的な関係性の構築があってこその成果なのです。


機会損失の大きさを数字で考える

具体的な数字で考えてみましょう。

一般的な司法書士事務所が年間4回のセミナーを開催し、毎回30名の参加があったとします。
個別相談に繋がるのは毎回5名程度ですから、年間で20名の見込み客を獲得していることになります。

しかし、もしセミナー参加者全体(年間120名)を見込み客として適切にフォローし、そのうちの10%が将来的に相談・受任に繋がったとしたらどうでしょうか。
12名の追加顧客獲得となり、従来の20名と合わせて32名、つまり60%の増加となります。

相続手続きの平均単価を50万円とすると、600万円の売上増加に相当します。
これは決して非現実的な数字ではありません。

むしろ、適切なフォローを行えば十分に達成可能な数字だと考えています。


なぜ見込み顧客フォローができないのか


では、なぜ多くの事務所で見込み客のフォローができていないのでしょうか。主な理由は以下の通りです。

まず、フォローの仕組みがないということです。参加者リストは作成するものの、その後の継続的なアプローチ方法が確立されていません。

次に、コンテンツ作成の負担です。定期的に有益な情報を発信し続けることは、想像以上に大変な作業です。事務所スタッフはただでさえ忙しいのに、見込度の低い顧客フォローの為に時間を割けない。

そして、効果測定が困難だということです。フォローによる効果が見えにくいため、継続のモチベーションを保つのが困難です。

しかし、これらの課題は適切なツールと仕組みを導入することで解決できます。


デジタルツールを活用した解決策

現在、多くの成功事務所が活用しているのがLINEを使った自動フォローシステムです。
LINEであれば、メールよりも開封率が高く、高齢者でも利用率が高い。

さらに、気軽にコミュニケーションを取ることができます。

具体的には、セミナー終了時にLINE登録を促し、その後は事前に準備したステップメッセージを自動配信します。
月に2〜3回程度、相続に関する有益な情報を継続的に発信することで、自然な形で関係性を維持できます。

ある司法書士事務所では、この仕組みを導入してから明らかに新規相談の質と量が向上したと報告されています。
「以前から事務所から送られるLINEの情報を見ていて、ぜひお願いしたいと思っていました」という相談者が増え、初回面談での受任率も大幅に向上したそうです。


継続的な関係構築の重要性


相続分野における顧客との関係は、一度きりで終わるものではありません。
一度相続手続きを依頼いただいた方も、その後の相続や生前対策で再度ご相談いただく可能性があります。

また、お客様からのご紹介も期待できます。

つまり、見込み客との関係構築は単純な新規獲得以上の意味を持っているのです。
長期的な視点で顧客との関係性を構築することで、安定した事業基盤を築くことができます。


今すぐ始められる具体的なアクション

見込み客フォローの仕組み作りは、決して複雑なものである必要はありません。
まずは以下のシンプルなアクションから始めることをお勧めします。

第一に、すべての接点でLINE友だち登録を促進することです。 
セミナー、相談会、ホームページ、名刺交換時など、あらゆる機会で「相続に関する有益な情報をLINEでお届けします」として登録を促しましょう。


第二に、登録者に対する継続的な情報発信を開始することです。 
月2〜3回程度、相続に関する法改正情報、手続きのポイント、事例紹介などを配信します。

特にステップ配信機能は、一度設定すればあとは自動配信が可能なので大変便利です。


第三に、効果測定を行うことです。 
友だち登録数の推移、配信メッセージの反応率、実際の相談・受任への転換率を記録し、改善に活かしましょう。


最も重要なのは「まず友だち登録を増やすこと」です。
 登録さえしてもらえば、その後のフォローは自動化できます。

継続的な関係構築といっても、事務所側が毎回個別対応する必要はありません。
仕組みを作ってしまえば、あとは自動的に動いてくれるのです。


成功事例から学ぶ


実際にこの仕組みを導入して成功している事務所の事例をご紹介します。

東京都内のA司法書士事務所では、従来月間3〜4件だった新規相談が、フォロー体制を整えてから月間7〜8件に増加しました。

特に、「以前から情報を見ていました」という既存の見込み客からの相談が月に2〜3件あり、これらの相談者は受任率も非常に高いそうです。


この事務所の先生は「フォローを始めてから、明らかに相談者の質が変わりました。
すでに信頼関係ができている状態で相談に来られるので、説明もスムーズですし、受任率も格段に上がりました」と話されています。


時代の変化に対応する


近年、相続分野を取り巻く環境は大きく変化しています。
法改正による制度の複雑化、高齢化社会の進展、デジタル化の促進など、様々な要因が相続手続きのニーズを高めています。

しかし同時に、競合も増加しており、従来の手法だけでは差別化が困難になっています。
このような状況下で安定した成長を実現するためには、顧客との長期的な関係構築がより重要になってきているのです。


まとめ


相続分野で持続的な成長を実現するためには、「今すぐ客」だけでなく「将来客」も含めたすべての見込み客を大切にする姿勢が不可欠です。
せっかく獲得した見込み客を「捨てる」のではなく、継続的な関係構築によって将来の顧客に育てていく。

この発想の転換こそが、今後の事務所経営における重要な成功要因となるでしょう。

適切なツールと仕組みを活用すれば、見込み客フォローの自動化は決して困難なことではありません。
まずは小さく始めて、徐々に仕組みを拡充していく。

そのような段階的なアプローチで、着実に成果を積み重ねていただければと思います。

執筆者のご案内

株式会社 Samika 
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。