相続売上向上のための顧客フォロー戦略

2025.04.17 11:50

相続市場競争激化の影響を受ける士業事務所

相続市場が拡大する一方で、士業事務所、特に司法書士や行政書士などが厳しくなってきている中で、私たちが⽀援先の事務所にお伝えしているのは、売上を「客数」だけで伸ばそうとする従来の考え⽅から脱却し、「LTV(顧客⽣涯価値)」を最⼤化する戦略へと切り替えるべきだということです。

従来は、「どうやって新規のお客様を獲得するか【集客】」が中⼼テーマでした。

広告やSEOなど、集客チャネルをどう設計するかが主な議論であり、既存顧客や過去の依頼者へのアプローチは“あれば良い”程度の位置づけだったと思います。

しかし、相続業務においては、お客様との信頼関係をしっかり築くことで「複数回の依頼」「追加提案の受任」につなげることができます。

つまり、1⼈のお客様に対して複数回の提案‧受任機会を創出する=LTVを⾼めることが、今後の⽣き残り戦略として⾮常に重要になるということです。

とはいえ、「客単価を上げましょう」と⾔われても、遺産整理などの業務は基本的に“⼿続き代⾏”が主となるため、差別化が難しく、価格だけを上げても受任率が下がってしまう恐れがあります。    


そこで私たちが重視しているのが、「購⼊単価」ではなく「購⼊回数」を増やす」という考え⽅です。

つまり、相続登記や遺産整理といった最初の業務(=フロントエンド商品)をきっかけに信頼関係を構築し、その後、遺⾔書作成‧死後事務委任契約‧遺⾔執⾏といった収益性の⾼い業務(=バックエンド商品)へとつなげていく流れを設計するということです。

この「フロントエンド」と「バックエンド」の考え⽅は、マーケティングの世界では広く⽤いられています。

たとえば美容クリニックでは、まずホワイトニングなどの低価格で気軽なサービスを提供し、信頼を獲得した上で、インプラントなど⾼単価の治療を提案するという流れがあります。

相続業務でも同様に、フロントエンド(相続登記や遺産整理)で信頼を獲得し、バックエンド(遺⾔書作成や死後事務)で収益を確保する構造を整えることが⼤切です。

このような仕組みを確⽴することで、相続⼿続き業務だけで完結してしまうのではなく、次のご提案‧次の依頼へと“つなげる⼒”が⾝につきます。

そしてこれは、結果として収益構造を強化し、⻑期的な事務所の成⻑につながっていくのです。

相続手続のヒアリングの段階から、二次相続提案を見据える

では、実際にこの「フロントエンドからバックエンドへつなげる」仕組みを、相続業務においてどのように構築していくのか。
ここでポイントとなるのが、「二次相続」への提案タイミングと手法です。

多くの事務所では、初回相談時に「この方は次の相続も揉めそうだな」と感じることがあるかと思います。
しかし、実際には業務中に情報提供ができず、手続きが終わったタイミングでようやく遺言や二次相続の話をしようとする…そんな流れになっていないでしょうか?

しかも、手続きが終わったあとのご案内は郵送対応で完結している事務所も多く、せっかくの“面談機会”が生まれず、そのまま自然消滅してしまうケースが大半です。

一方で、お客様の心理状態を見てみると、初回相談時点では二次相続への意識はほとんどありません。
「まだ先の話だし、今は関係ない」と思われがちです。
しかし、遺産整理や相続登記が完了し、一段落ついたタイミングでは、多少なりとも**「自分も将来の備えをしておくべきかも」**といった意識が芽生えることがあります。

このタイミングこそが、ご提案の絶好のチャンスなのです。

つまり、手続き完了後に「もう一度ご来所いただく」ことで、対面での二次相続提案につなげる。
ここを“営業機会”としてしっかり活用することが、LTV向上に直結します。


加えて、業務中のやり取り期間においても、ただ進捗の連絡をするだけではなく、LINEやメールなどを通じて二次相続や遺言の必要性に関する情報発信を継続的に行うことが重要です。

属性ごとに最適なコンテンツを自動で届け、お客様の関心を少しずつ高めていく。
このように“育てる”視点を取り入れることで、無理な営業感を出さずに、自然な流れでご提案へつなげることができます。


完了時の面談では、たとえば「二次相続対策チェックシート」などを使い、お客様の関心度を可視化しつつ、具体的なアクションを提案していきます。

「今回の手続き、大変でしたよね。同じ思いをお子さんにさせたくないですよね」
「お母様がしっかり準備されていたから、今回スムーズに進みました。次も同じように準備しておきませんか?」

――といった声かけを通じて、感情に寄り添った提案が効果的です。

顧客フォロー方法を変えることで相続売上が上がる

実際に、私たちがご支援している事務所では、こうした仕組みを導入することで明確な成果が出始めています。

ある事務所では、もともと相続手続きを月に15件ほど受任していました。
しかし、手続き完了後に「遺言書もお願いしたい」といった追加依頼につながるのは、月に1件あるかないか。

全体の中で見ると、遺言書作成の受任率はわずか5%以下でした。
しかも、それらはほぼすべて“お客様からの申し出”によるもので、事務所から積極的に提案していたわけではありません。

このような状態だった事務所が、私たちと一緒に以下のような取り組みを行った結果、大きな変化が生まれました:

二次相続提案の対象者を明確化
必要性を可視化するチェックシートを導入
提案トークのスクリプト化
LINEを使ったステップ配信による継続的な情報発信

具体的には、受任中のお客様に対して、業務の進行にあわせてLINEで定期的に「遺言の重要性」や「二次相続の備え方」などを伝える情報を発信。
そして手続き完了時には必ず面談を設け、「今後の備えも考えませんか?」と丁寧にご提案する――そうした運用に切り替えたのです。

その結果、遺言書作成の受任率が大きく向上。
さらに、遺言執行や生前対策の相談数も増加し、LTVの向上につながっています。


また、別の事務所では、過去の顧客リスト(相続手続きなどを過去に受任した方)を見直し、そこに対してLINEの友だち登録を促すチラシを送付。

以前相談をしたタイミングから自身や両親の身体状況や資産状況も大きく変わり、改めて相続対策を検討する必要性を感じてもらうことで再接点を獲得。

そこからコラム配信・セミナー告知などを行い、次のご相談につながったという事例も出てきています。


たとえば、遺言書作成セミナーをLINEだけで告知し、3回の配信で過去客から20名の集客に成功したという成果もありました。
新聞折込やチラシの印刷など、従来のコストが一切かからず、非常に効率的な集客施策になったという声をいただいています。

このように、過去に依頼をいただいた“既存顧客”は、極めて信頼性が高く、実は大きな資産です。

ところが多くの士業事務所では、その資産をほとんど活用できていないというのが現状です。

LINEを使った継続フォローは、その“眠っている資産”を掘り起こすための非常に有効な手段だと感じています。