相続市場を取り巻く環境と士業事務所の現状

2025.04.18 13:52

相続市場は今後も成長を続ける、稀有な市場

「相続市場の現状」と「それを取り巻く競合環境」について、要点を絞ってお伝えします。

相続や財産管理の市場は、先生方もご承知のとおり、今後も拡大傾向が続く見込みです。
高齢者人口は、全体の人口が減少している中でも増え続け、2043年にピークを迎えると予測されています。
このように、今後も相続・財産管理分野のニーズは継続的に拡大していくことが明らかで、将来性のある市場だと言えます。

また、司法書士の先生方にとっては、相続登記の義務化が始まったことにより、一時的に相続登記の依頼が増加したという声も多く耳にします。
一方で、行政のデジタル化・オンライン化の推進により、手続きが簡素化され、将来的には誰でも手軽に対応できる時代が来る可能性もあります。

そうなると、「面倒な手続きを代行する」ということ自体の価値が薄れ、報酬単価の低下や案件数の減少につながるリスクもあるでしょう。

相続市場を巡る競合環境の変化と競争激化

次に、競争環境についてです。
現在、相続市場には大手の税理士法人が次々と参入し、マーケティング面で圧倒的な存在感を放っています。
Webマーケティングを駆使して全国規模で集客を強化しています。

このような大手の台頭により、資本力・ブランド力・人員体制において優位な税理士法人が、司法書士・行政書士業界のマーケットシェアを奪っている現状があります。


さらに、税理士法人だけでなく、不動産会社・金融機関・保険会社といった他業種も、相続関連マーケティングの強化に注力しています。

試しに「相続+地域名」で検索してみてください。
上位に表示されるのは、司法書士や行政書士事務所のサイトよりも、金融機関や不動産会社のサイトが多く、しかもリスティング広告の出稿も積極的です。
たとえば三菱UFJ銀行も相続の専用ポータルを開設し、広告出稿を強化しています。


不動産会社も、相続をきっかけに不動産売却ニーズを取り込む目的で、相続関連の集客に取り組むケースが増えています。
これまでWebから安定的に問い合わせがあった先生方も、ここ3〜4年で「反応が減ってきた」「問い合わせ単価が上がった」と感じている方が多いのではないでしょうか。


さらに最近では、士業事務所がグループ内で不動産仲介事業を立ち上げ、相続案件から自然に不動産売却を受任するスキームも増加しています。
「不動産も扱っています」とは表に出さず、相談の流れの中で売却サポートに入る、というケースもよく見られます。
実際、先ほどの大手士業法人の多くは、すでにこうした形で不動産事業を展開しています。


このように、相続市場は今後も拡大していく一方で、大手や他業種の参入により、司法書士・行政書士の立ち位置は年々厳しくなっているのが実情です。


相続市場競争激化の影響を受ける士業事務所

先ほどご紹介したように、Web広告費は高騰しており、司法書士や行政書士が従来のようにWebマーケティングで集客を行うのは、年々難しくなってきています。

そうした中、相続が発生した直後のタイミングでお客様と接点を持てる業種――たとえば「葬儀社」との連携が注目されています。

実際に大手事務所では、葬儀社との提携を強化しており、「紹介手数料は何%」「うちはこういった業務体制でミスなく対応します」といった提案を行い、他の事務所から切り替えを狙う動きも盛んです。


こうして、金融機関や大手葬儀社と直接提携し、元請けとなるのが大手事務所。
ただし、自社ですべてを処理するわけではなく、実務は連携している中堅以下の士業事務所に下請けとして流す、という仕組みが一般的です。

結果として、中小の士業事務所は“業務処理は同じでも、報酬は紹介手数料を差し引いた金額”となり、利益率が下がってしまうという構図です。


つまり今、士業事務所は次のような厳しい状況に置かれています:

集客コストの高騰

利益率の低下

競合(税理士、不動産会社、金融機関)との受注単価の格差



たとえば、相続税申告を手がける税理士の場合、1件あたりの報酬は平均80〜100万円ほど。

一方、行政書士の相続業務では平均15万円前後、司法書士でも良くて20万円程度というのが実情です。

この単価差は、集客にかけられる広告費にも直結します。
税理士が1件獲得のために使える広告費と、司法書士・行政書士が使える額には、最大で5倍以上の差が生まれるのです。


そのため、今後もWeb広告やSEOだけで他業種と勝負するのは、ますます難しくなっていくと考えています。