デジタル遺言時代に向けて、士業事務所が準備すべきこと

2026.04.07 09:30

2026年4月、政府はデジタル遺言(保管証書遺言)の創設を柱とする民法改正案を閣議決定しました。
施行は2027〜2028年頃が見込まれていますが、銀行・信託銀行や大手デジタルサービスはすでに動き始めています。


この変化の中で問われるのは、「遺言書の書き方を教える・形式を整える」という代書的な支援を超えた、士業事務所としての提供価値です。

制度施行を待ってから動くのではなく、今から何を準備するかが、2〜3年後の事務所のポジションを決めます。




提供価値と商品構成を、今のうちに変えておく

デジタル化が進むほど、「遺言書を作る作業」そのものの価値は下がります。
アプリやサービスで誰でも作れるようになる部分を、士業事務所の収益の柱に置き続けることはできません。

変えるべきは、ヒアリングの対応方法、収集すべき情報です。

これまでの「代書のためのヒアリング」は、遺言書の形式を整えるための情報収集でした。
これからは、家族構成・資産状況・不動産の有無・認知症リスク・本人の想いを丁寧に引き出すことが出発点になります。
その情報をもとに、遺言書の内容だけでなく、周辺の論点を顕在化させ、最適な選択肢を提案・コーディネートできるかどうかが、士業事務所の価値になります。


具体的には、遺留分侵害のリスクはないか、不平等な分割によって家族間の摩擦が生じないか、遺言執行は確実に行われるか、認知症になった場合の対策は別途必要ではないか。
こうした論点は、一般の方が自分で遺言書を作る際には見落とされがちです。
その「気づきを与える力」こそが、士業事務所の差別化になります。


そして、商品構成も見直す必要があります。
遺言書作成をフロントエンド商品(集客の入り口)と位置づけ、そこからつながるバックエンド商品を設計することが重要です。
遺言執行サポート、不動産売却支援、おひとり様相続支援、任意後見・家族信託の提案など、遺言書作成後の関係を収益化する導線を今から整えておく必要があります。



遺言書を「単発商品」から「顧客接点の起点となる商品」に再定義

遺言書作成は、これまで単発で完結することが多い仕事でした。
しかし、相続・生前対策の文脈で考えると、遺言書は顧客との長期的な関係の起点になり得ます。

遺言書を作成した顧客は、その後も資産状況の変化・家族構成の変化・認知症リスクの高まりとともに、継続的なサポートを必要とします。
遺言書の内容を定期的に見直す関係、生前対策全体をサポートする関係へと広げていく設計が、LTV(顧客生涯価値)の観点から重要です。

デジタル遺言が本格施行される2027〜2028年以降は、銀行・信託銀行や大手デジタルサービスとの競合が本格化します。

一方、施行前の今は、大手がまだ動き切っていない時期です。この時期に顧客との関係を作り、信頼を積み上げておくことが、士業事務所にとっての最大の優位性になります。


また、バックエンド商品を充実させるためには、自事務所だけで完結しようとしない姿勢も大切です。
税理士・不動産会社・ファイナンシャルプランナーなど、周辺専門家との連携ネットワークを今から整えておくことで、コーディネーター的なポジションを意識的に取りにいくことができます。


顧客にとっての「頼れる相談窓口」になることが、長期的な関係の基盤になります。



集客の訴求軸を変える――「自分で作った遺言書」のリスクを伝える

デジタル遺言が普及すると、「遺言書は自分で作れる」という認識が広がります。
しかし、これは士業事務所にとってピンチではなく、訴求軸を変えるチャンスです。


集客のメッセージを、「遺言書を作りませんか」から「自分だけで考えた遺言書が、逆にトラブルの原因になることがあります」へ。
この転換が重要です。


遺留分を侵害した遺言書が原因で相続争いが起きるケース、認知症が進んだ後の遺言書の有効性が争われるケース、遺言書はあったのに執行されなかったケース。
こうしたリスクは、専門家の関与なしには見えにくいものです。


訴求のストーリーとしては、「家族へのトラブルを残さないために」「認知症になる前に、判断力があるうちに」「感謝の気持ちを形にする手段として」といった切り口が、一般層に刺さりやすいものです。


また、「遺言書だけが選択肢ではない」という視点も有効です。
任意後見・家族信託・生前贈与など、状況によってより適切な選択肢があることを伝えることで、専門家への相談動機を高めることができます。


さらに、施行が近づくにつれて「今のうちに専門家に相談しておくべき理由」という緊急性の訴求も有効になります。
制度変更の情報をいち早く発信し続けることが、事務所の信頼性と専門性を高めることにもつながります。



営業導線を設計し、継続的な接点を作る

訴求軸と商品構成が整ったとしても、顧客との接点が単発では意味がありません。
セミナーや相談会を入り口にしつつ、そこからどのように関係を継続・深化させるかの導線設計が必要です。


基本的な流れとしては、セミナー・相談会への参加→LINE登録→継続的な情報提供→無料相談→遺言書作成依頼→バックエンド商品へ、という導線が考えられます。この流れの中で最も重要なのが、LINE登録後の情報提供の質です。


「誰にでも同じ内容を送る一斉配信」では、読み手との関係は深まりません。
読み手の状況・関心・検討段階に合わせた情報を届けることで、はじめて「この事務所に相談したい」という気持ちが育まれます。


たとえば、「子どもがいない方」「不動産を持っている方」「認知症の親を持つ方」それぞれに響くコラムや事例は異なります。
ステップ配信の機能を活用して、登録者の属性や行動に応じたコンテンツを自動で届ける仕組みを作ることが、継続的な関係構築の鍵になります。


LINEを活用した情報提供・教育・面談誘導の一連の流れを、仕組みとして整えておくこと。
これが、デジタル遺言時代に向けた営業導線設計の核心です。


こうした仕組みの構築をサポートするツールとして、LINE公式アカウントを活用したマーケティング自動化システム「サズカルステップ」があります。相続・生前対策に特化した士業事務所向けに設計されており、ステップ配信による見込み客の教育から面談予約の促進まで、営業導線をシステム化することができます。


おわりに デジタル遺言のスタートに向けて

デジタル遺言の施行は、2027〜2028年頃の見込みです。しかし、準備を始めるタイミングは今です。

提供価値の再定義、商品構成の見直し、集客の訴求軸の転換、営業導線の設計、連携ネットワークの構築。これらは一朝一夕では整いません。施行後に大手との競合が本格化する前に、士業事務所としての独自のポジションを築いておくことが、最も確実な準備です。

遺言書作成の「形式面」が商品でなくなる時代に、何を商品にするか。その答えを、今から事務所の中で具体化していくことが求められています。


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川崎 啓
株式会社 Samika
代表取締役 川崎 啓

東証一部上場のコンサルティング会社にて15年勤務し、士業事務所の相続・生前対策分野に特化したコンサル部隊を立上げ、累計300事務所を超える相続マーケティング、業務生産性向上の支援実績がある。

現在は株式会社 Samika(サミカ)を2024年1月に創業し、「士業」×「相続」の分野で経営コンサルティングを行っている。また、士業事務所の相続分野におけるマーケティングを支援するLINE拡張システム「サズカルステップ」を開発、提供しており、利用事務所を増やしている。

「『相続で家族、社会が強くなる』を応援する」をミッションとして、相続分野に取り組む士業事務所の経営、マーケティング、業務DX化支援を行っている。